“逃げ恥”から『罪の声』へ。 星野源と野木亜紀子が挑んだ新たな境地

コラム

“逃げ恥”から『罪の声』へ。 星野源と野木亜紀子が挑んだ新たな境地

大手食品会社6社に謎の犯罪者グループが誘拐や身代金の要求、商品への毒物混入などを繰り返し、日本中を震撼させた未解決事件。35年前に実際に起きたこの劇場型犯罪の脅迫電話に、子どもの声が使われていたことに着目し、事実とフィクションを織り交ぜながら事件の真相に迫った塩田武士の社会派ミステリー「罪の声」。小栗旬と星野源が初共演を果たして映画化され、現在公開中だ。

小栗旬と星野源が初共演!
小栗旬と星野源が初共演![c]2020 映画「罪の声」製作委員会 

本作で注目すべきは、実際の事件もそうだったのかも知れないと思わせる原作小説のリアリティとスピリットはそのままに、事件を知らない世代が観ても楽しめるエンタテインメントに昇華させているところだ。そして、それを成功させた立役者を敢えて挙げるなら、脚本の野木亜紀子と脅迫電話に幼少期の自分の声が使われたことを知る主人公のひとり・曽根俊也を演じた星野源ということになるだろう。

星野源扮する曽根は、幼い頃の自分が未解決事件に関わっていたことを知りショックを受ける
星野源扮する曽根は、幼い頃の自分が未解決事件に関わっていたことを知りショックを受ける[c]2020 映画「罪の声」製作委員会 

野木はメガホンをとった土井裕泰監督と契約結婚がモチーフのラブコメディ「逃げるは恥だが役に立つ」(16)などで何度も組んでいるが、その“逃げ恥”や法医解剖医の世界を描いた「アンナチュラル」(18)、現代に生きる人たちを見つめた「獣になれない私たち」(18)などなど娯楽作品の中で現実の社会問題を提示するのが上手い。今年オンエアされた「MIU404」でも警視庁機動捜査隊をめぐるアクションドラマの中で、日本で働く外国人労働者の問題など我が国が抱える厳しい現実を浮き彫りにしていたが、本作でも文庫版で535ページもある長尺の原作をブラッシュアップさせながら、“子どもたちを巻き込んだ”犯人たちの罪の重さを訴える原作のテーマをより強く打ち出している。

力作を作り上げた土井裕泰監督、小栗旬、星野源の3ショット
力作を作り上げた土井裕泰監督、小栗旬、星野源の3ショット[c]2020 映画「罪の声」製作委員会 

だが、その一方で野木は、本作を原作とは違う曽根と事件を調べる新聞記者・阿久津英士とのバディムービーにすることで、よりエンタテインメント性の高いものに。そんな彼女の狙いを曽根に扮した星野源がさらに魅力的な形で成立させているのだ。

父の遺品の中で見つけたカセットテープが自分と事件との関わりを示していた
父の遺品の中で見つけたカセットテープが自分と事件との関わりを示していた[c]2020 映画「罪の声」製作委員会 

星野ありきで最初から企画が進んでいたこともあり、野木は“逃げ恥”や「MIU404」(撮影は『罪の声』より後)などで周知の彼をイメージして脚本を執筆。その狙い通り、京都の老舗テーラーの二代目店主という役柄には星野の音楽家=クリエイターとしての職人気質が、奥さんとやりとりをするシーンでは優しく穏やかな人柄が反映されている。そして、そんな彼のキャラクターが阿久津に扮した小栗旬とのかけあいの中で全開!「MIU404」でも綾野剛とバディを組み、いままでとは違う顔を見せていた星野だが、本作でも出会うはずがなかった違う世界の人間が距離を少しずつ縮めながら、事件の核心に向かう展開にリアリティを持たせていて、ぐいぐい引き込まれる。

【写真を見る】小栗旬、星野源が初共演!2人は共に事件を追ううちに信頼を深めていく
【写真を見る】小栗旬、星野源が初共演!2人は共に事件を追ううちに信頼を深めていく[c]2020 映画「罪の声」製作委員会

しかも、このバディムービーの要素は前記のように映画のオリジナルの設定で、曽根と阿久津の会話にはアドリブもふんだんに盛り込まれている。星野は小栗とガッツリ組み、異なる個性と個性がぶつかり合う映画の中で自らに託された役割をストレートに体現。『罪の声』を彼の芝居に注目しながら観るのもおもしろいかもしれない。

文/イソガイマサト

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