橋本愛とキム・ボラ監督が語り合う、『はちどり』が描く死生観と“つながり”「人生をじっくりと覗き込んでいくことを表現したい」
第33回東京国際映画祭の新たな取り組みとしてスタートしたトークシリーズ「アジア交流ラウンジ」。アジア各国・地域を代表する映画監督と、日本の第一線で活躍する映画人とが様々なテーマでオンライン・トークを展開していく。
11月1日に行われた第1回は女優の橋本愛と、モデレーターとして本企画の発案者でもある是枝裕和監督が登壇し、韓国の新鋭キム・ボラ監督がオンラインで登壇。今年6月に日本で公開されるやスマッシュヒットを記録した『はちどり』(18)で描かれる感情の機微や、作品に込めた死生観。そしてコロナ禍でのクリエイティブの変化について、予定時間を大幅に超過して約2時間にわたって語り合った。
『はちどり』は急速な経済発展を続ける1994年のソウルを舞台に、自分に無関心な大人に囲まれながら孤独感に苛まれる14歳の少女ウニの思春期特有の揺れ動く思いや、家族や友人との関わりを描いたキム・ボラ監督の長編デビュー作。2018年の釜山国際映画祭でお披露目され高い評価を獲得し、その後ベルリン国際映画祭など国内外の映画祭で50を超える賞を受賞。韓国では主人公と同年代の女性を中心に共感を集め、大ヒットを記録した。
「『世界は不思議で美しい』という言葉が自分のいまの感覚と重なったときに、涙があふれてきました」(橋本愛)
是枝「『はちどり』が本当にすばらしくて、是非こういうかたちでお会いしたいなと思ったのが、キム・ボラさんをお招きした一つのきっかけです。橋本さんは“ミニシアターを救え!”というコロナ禍で起きた動きに賛同していただいて、お礼を伝えたかった。もし今後キム・ボラさんが日本の役者で映画を撮ることがあったら、そこに橋本さんが出たらいいなと思い、お2人を引き合わせました」
キム・ボラ「招待してくださってありがとうございます。『はちどり』は喪失をテーマにした作品で、作る際に参考にしていた映画が是枝監督のデビュー作である『幻の光』でした。それ以外にも『誰も知らない』で描かれた都市の風景や、是枝監督の静けさを湛えた演出にいつもインスピレーションを受けてきました。橋本さんの出演作は『リトル・フォレスト』を拝見しましたが、微妙で繊細な感情の動きを表現されていたことが印象深く、とても感銘を受けました」
橋本「『はちどり』を拝見して、本当に感動しました。主人公のウニはいろんなものを失うというより、急に別れが訪れたり、相手も自分も急に気持ちが変わっちゃったり、そういうなにかが突然起こることに翻弄されながら、懸命に生きてる。その姿を見て、ウニと同じ年の頃を思い出しました。
毎日毎秒自分の気持ちが変わっていって、失ってきたものもあれば傷つけたことも傷ついたこともたくさんあったけど、いま私はこの世界に対して希望を持って生きている。映画の最後にある『世界は不思議で美しい』という言葉が自分のいまの感覚と重なったときに、涙があふれてきました」
キム・ボラ「心から気持ちがこもった言葉に感謝します。私は常に“生と死”を映画のテーマとして考えています。私たちは毎日生まれて死んでいく。太陽が昇って沈んで、月が昇って沈んでいくように、人生も絶えず様々なものが生まれて死んでいくことが繰り返されていくのではないかと考えていて、それを映画のなかに込めたいという想いで『はちどり』を作っていました。
私は『リトル・フォレスト』の後編のラストで、橋本さんが伝統的な日本の舞を踊る際の決然とした表情にとても感動したのですが、どこか『はちどり』のエンディングとそれが重なったような気がしています」