“警察監修”ってどんなお仕事?「TWO WEEKS」「サギデカ」から映画『望み』までを手掛ける、プロが宿すリアリティ
姿を消した息子(岡田健史)が殺人事件の加害者か被害者かわからない。犯罪者であってほしくないと世間体を気にする父(堤真一)と、生きていてくれさえすればいいと望む母(石田ゆり子)との葛藤を描くサスペンス・エンタテインメント『望み』(公開中)。少年犯罪というデリケートな事件だからこそいっそう、登場人物の心情表現や設定のディテール描写に作り手の手腕が問われる。
警察監修を担当したのは、「サギデカ」や「MIU404」など多くの人気ドラマや、映画の警察監修を行っている五社プロダクション。「刑事ドラマに3割のリアルを」をモットーに犯罪もののエンタメ性を保持しつつ、根っこは犯罪抑止のために日夜、心を砕く。警察監修とはどういう仕事か。『望み』に描かれた少年犯罪をどう見るか、監修を担当した志保澤利一郎に取材を行った。
――『望み』の警察監修を引き受けた時、まず、どういうことから手掛けられましたか?。
「“警察監修”には、作品の企画段階から参加する場合と、すでに出来上がった準備稿などのチェックから参加する場合の2種類があります。『望み』は準備稿から参加しました。まずは準備稿の中の警察関連の描写部分にチェックを入れ、問題点をあげ、スタッフからあがった疑問点についてやり取りして、合意点を見つけます。それから、各役者の所作や現場設定を随時ご指導させていただき、撮影が始まると、現場の要請があれば現場指導もします」
――『望み』の現場設定はどういうふうになっていたのでしょうか。
「車のトランクから死体が出てくる場面から警察が関わってきます。この時点では、少年事件か成人事件かわからないので、まずは所轄と本部主管課が動きます。そこから、捜査一課を胴元(元締め)にするのか、少年捜査課を胴元にするのかを見極めます。今回は、少年事件と判断されたことで少年捜査課主導による捜査本部になりました。画面上では少ししか映っていなくとも、その裏にあるたくさんのリアルを、作品を邪魔しない範囲で、できる限り再現したいと考えて監修に当たっております」
――少年課ならではの捜査の仕方や対応の仕方がありますか。
「成人事件で刑罰を課す目的は、罪を償わせ、再犯を防止することです。一方で少年事件の場合は、少年の健全育成、性格の矯正、立ち直りを目的としています。基盤は少年の健全育成がベースですから容疑者への扱いも違ってきます。かいつまんで申しますと、健全育成を目標に捜査活動を行い、刑事手続き、あるいは裁判、処分の方法も成人事件とは異なります」
――『望み』では事件の状況が明確に家族に伝わってこないため家族が揺れ動くことが映画のおもしろさになっています。実際はどれくらい情報を明かすものなのでしょうか。
「基本的には、捜査情報は教えられないのが原則です。捜査の過程を話したことによって被害者の方たちに不安を生じさせてしまいますから、極力、説明しません」
――なにもわからないまま刻々と過ぎていく時間が、家族にとって途方もなく長く感じます。映画で描かれた事件の調査は、あれくらいの時間がかかるものですか。
「映画では次々と結論が出てくるほうで、本来、もっと時間がかかります。1、2年かかることも稀ではありません。この物語では結論が速いほうとはいえ、こういう状況での一日の長さは平穏な日々とはまったく違うもので、永遠のように長く感じる、本当に苦しい一日が描かれていると思いました。自分の子どもを信じたいけれど、不安も出てくる。『あの時こうすればよかった…』などという逡巡が一日において何度となく繰り返される。そういう心情がものすごくよく出ている作品だと感じました」
――担当の2人の刑事たちがクールな印象です。皆、こういうものなのでしょうか。
「こういう局面において、刑事は誰しも冷静さが求められるものです。ちょっとしたひと言でも、ものすごく重いものになりかねないので、言葉遣いには細心の注意を払わなければいけませんし、喜怒哀楽を表に出してもいけません。『望み』では、息子が加害者なのか被害者なのか、右も左もわからない状況下における両親の葛藤がテーマですから、担当の刑事が両親の気持ちを落ち着かせながら、粛々と捜査を進めていくところを強調するように指導させていただきました」