【今週の☆☆☆】歌集の映画化『滑走路』、少年レミが歌う『家なき子 希望の歌声』など、週末観るならこの3本!
MOVIE WALKER PRESSスタッフが、週末に観てほしい映像作品3本を(独断と偏見で)紹介する連載企画。今回は、11月20日から今週末の公開作品をピックアップ。若手官僚、夫との関係に悩む切り絵作家、いじめを受ける中学生それぞれの物語が交錯するヒューマンドラマをはじめ、日本でもアニメーションでなじみの深い児童文学の映画化、火山テーマパークが舞台のド派手なパニック・アクションのバラエティ豊かな3本がそろった!
生きてこそある日常が、誰にとっても奇跡…『滑走路』(公開中)
激務に追われる若手官僚。家庭と仕事の間で揺れる切り絵作家。シングルマザーの母にいじめをひた隠しにする中学生。誰にも打ち明けられない苦しみを抱えながら、なんとか生きている人々。「歌集 滑走路」のあとがきを入稿後、32歳の若さで命を絶った歌人・萩原慎一郎の歌集が原作の本作は歌集からインスパイアされたオリジナルストーリーで構成されている。原作とはいえ、彼の詠んだ歌が劇中、紹介されるわけではない。だが、じっと映画を見つめるうち、バラバラだった主人公たちのドラマが次第に繋がっていくように、その背景に描かれている歌人の歌の源であるいじめ、非正規雇用、過労といった問題がまざまざと浮かび上がってくる。まるで自死で存在を訴えようとした歌人が歌に残した心の叫びが聞こえてくるようだ。決してなくならない、いじめを助けていじめられるような負の連鎖。生きてこそある日常が誰にとっても奇跡であることに改めて気づかされる。(映画ライター・髙山亜紀)
脳裏に懐かしい絵本がよみがえる感覚…『家なき子 希望の歌声』(公開中)
少なくともタイトルは誰もが知っている、フランスの名児童文学の映画化。日本で過去にアニメ化もされているので、多くの人がなんとなく物語も知っているだろう。育ての親に売られ、旅芸人の親方ヴィタリスと、犬のカピ、猿のジョリクールと共に巡業に出ることになった少年レミが、本当の親を探し当てるまでの長い旅路を描く。観ているうちに“確かこんな物語だったな”とか、“思い描いていた通りの世界観だ!!”と、脳裏に懐かしい絵本がよみがえるような感覚でワクワクさせられる。愛情深くレミを見守り、歌の才能を見出してくれるヴィリタス役の名優ダニエル・オートゥイユが、相変わらずの味わいで、なんとも言えない安心感を醸す。当時の街の様子、人々の暮らし、フランス各地の風光明媚な景色の数々、そしてもちろんレミ役の少年の可愛らしさと澄んだ歌声、車椅子に乗る初恋の少女の可憐さ、犬や猿の名演など、見どころも盛りだくさん。終盤、レミの実の親と名乗り出る一家のくだりは少々カリカチュアされ過ぎなきらいはあるが、痒い所に手が届いたような腑に落ちる感覚が気持ち良い。子どもにも安心しておススメ!(ライター・折田千鶴子)
これぞ、パニック映画のあるべき姿!自然の猛威で圧倒する潔さ…『ボルケーノ・パーク』(11月20日公開)
自然と共存している人類にとって避けられないのが地震や台風、噴火といった自然災害。それを題材にした“パニック映画”は、もっとも身近に怖さを感じさせるエンターテイメントといえる。多くの犠牲者を出した天火島の噴火から20年。島には火山活動を間近で味わうテーマパークが完成し、観光客でにぎわっていた。そんな中、火山研究チームは山の不穏な動きを察知する…。映画は定石通り研究者VS実業家という図式で幕を開けるが、「そもそも活火山に観光施設を作るのか?」というツッコミを想定してか、序盤から派手な噴火シーンで押しまくるのが本作の面白さ。安易に“悪人”を作らずに、自然の猛威で圧倒する潔さはパニック映画のあるべき姿と言いたい。人間ドラマは父娘関係を軸にした中国映画らしい展開だが、ヒーロー然とした主人公が大活躍するハリウッド映画に食傷気味な身にはかえって新鮮。スクリーンで味わうべき純エンタメ作である。(映画ライター・神武団四郎)
週末に映画を観たいけれど、どの作品を選べばいいかわからない…という人は、ぜひこのレビューを参考にお気に入りの1本を見つけてみて!
構成/サンクレイオ翼