妻夫木聡がのび太役で感じた、家族にあふれる“愛”「自分が父親になるなんて、思ってもみなかった」
「のび太は自己評価が低いけど、実は両親のいいところを引き継いでいる」(山崎監督)
――「ぼくの生まれた日」(てんとう虫コミックス『ドラえもん』第2巻収録)のエピソードも入っていますが、のび太のパパが、生まれたばかりののび太に指を握らせるシーンも感慨深かったです。
八木「手のアップでは、相手がどうやって手を差しだして握るのかで、お互いの関係性を象徴するように描きました。例えば、大人のび太と大人しずかは対等な立場にいるから同時に握るし、おばあちゃんはのび太の手を包み込むように握る、また、赤ちゃんののび太は手が小さいから、パパの指を握るんです」
妻夫木「あれは、絶対にやります。また、のび太が生まれた日に、お父さんとお母さんが息子に対しての期待を口にするシーンは、台本を読んでいた時は、ほんわかして心温まるなと思っただけでしたが、完成した映像を観ると泣けるんです。僕自身も自分の子どもが産まれた時は、いろいろな気持ちがあったなとか、子どもの名前を付ける時も、様々な想いを込めてつけたなとか、振り返ったりもしました」
――その日のエピソードが伏線となって、結婚式でののび太のスピーチにつながっていきますね。演じた妻夫木さんは、どんなふうに臨みましたか?
妻夫木「当時は僕自身も結婚して間もないころで、自分と重なるところが多かったし、過去の親父や母、おばあちゃんや兄といった、いろんな人の姿が思い浮かぶようなシーンにしたいなと思いました。ただ、最初にやってみた時は、自分の感情が入りすぎてしまったので、家でずっと練習しました。スマホで録音したものを自分で聴いて、いい塩梅の声を探っていった感じです。スピーチのシーンが終わったあとも『本当にあれで良かったんですか?』と何回も監督に聞いてしまいました(苦笑)」
八木「あれが良かったんですよ!そんなに練習されていたとは知らなかったです」
妻夫木「どのシーンも、前作の倍以上は練習しました」
山崎「僕らにしてみれば、妻夫木さんの声を聴くたびに『いいじゃない!』とうなずいていたんですが」
――スピーチの内容もすばらしかったですし、のび太の人となりが伝わってきて感動しました。
八木「のび太はのんびり屋でだらしない部分やダメなところもたくさんあるけど、その奥底には、やさしさや諦めない気持ちを持っているんだというところを妻夫木さんがしっかりと表現してくれました。最後のスピーチは本当に良かったです」
山崎「そうなんです。のび太は自己評価が低いんだけれど、実は両親のいいところを引き継いでいると思います。そこをのび太自身、今回の旅のなかで多少なりとも気づけんじゃないかと。もちろんそこに至るまでは、大変な旅になったわけですが」
妻夫木「両親はもちろん、やっぱりおばあちゃんの優しさや強さがあったからこそ、いまののび太があるのかなと。そこは本当に感動しました」
――まさにコロナ禍において、とても心に響く家族の物語となりました。
八木「プレスコ(脚注:映像が完成するよりも先に台詞の録音をすること)をやっていたころは、まさか公開時期にいまのような状況になることは全く想像してなかったです」
山崎「確かにそうですね」
妻夫木「僕がプレスコに参加したのは2年前で、結婚はしていましたが、まさか公開時に自分が父親になっているなんて、思ってもみなかったです。でも映画を観て、家族というものは本当に愛にあふれているんだなと、改めて感じました。ぜひ、多くの方に本作を観ていただき、また“ドラ泣き”をしてもらえたらうれしいです」
取材・文/山崎伸子