“海の上のピアニスト”の内面に深く切り込むイタリア完全版…通常版との違いをひも解く!
『ニューシネマ・パラダイス』(89)のジュゼッペ・トルナトーレ監督と、今年の7月に91歳でこの世を去った映画音楽の巨匠、エンニオ・モリコーネがタッグを組んだ不朽の感動作『海の上のピアニスト』(98)。船で生まれ、生涯一度も陸に上がることのなかった天才ピアニストの生き様が描かれる。そんな本作の監督が自ら監修を務めた4Kデジタル修復版と、イタリア完全版がセットでパッケージになって発売中だ。この記事では、初公開時に本国イタリアでしか上映されなかった完全版に注目し、インターナショナル版でカットされたシーンに触れながら作品の魅力に迫りたい。
大西洋を巡る豪華客船ヴァージニア号。乗客が去った船を物色していた黒人機関員のダニー・ブートマンは、小さなレモンの箱に置き去りにされた生後間もない赤ん坊を見つける。赤ん坊は新世紀の最初の年、1900年にちなんで“ナインティーン・ハンドレッド”と名付けられた。ダニーや船員たちの愛情を受けてすくすくと育ったナインティーン・ハンドレッドは、ある夜、ダンスホールのピアノを演奏し、驚くべき才能を発揮する。まだペダルに脚もつかない小さな男の子が奏でる旋律に酔いしれる大人たち。やがて、彼は伝説的な名物ピアニストとして、その名をとどろかせるのだった。
40分以上の未公開シーンが追加されたイタリア完全版
日本で公開されたインターナショナル版が125分の上映時間なのに対し、イタリア完全版は170分。40分以上のシーンが復活し、短く編集されていたティム・ロス演じるナインティーン・ハンドレッドのピアノ演奏シーンや、ユーモアあふれる会話のやり取りも本来の姿に。タイトルやクレジットロールもイタリア語で演出されるなど、多くのファンが待ち望んだ内容が盛り込まれている。
まずは冒頭、豪華客船の甲板にいる人々が自由の女神を見つけて歓喜に沸くシーン。一等から三等の乗客、それぞれの表情や仕草を映していると、1人の男性が「アメリカ!」と叫び、大勢が一斉にその方向を向き、歓声を上げ、帽子を取って手を振る。完全版では、この一連の流れが長くなり、様々な思いを胸に新天地へやってきた人々の感情の昂ぶりがより切実に伝わってくる。
少年ナインティーン・ハンドレッドを見守る船員たちの温かさが伝わる
ナインティーン・ハンドレッドの赤ん坊や少年時代にもいつくかの追加シーンが。おしめを汚して泣く赤ん坊のナインティーン・ハンドレッドを抱えたダニーが子守唄を歌い、ほかの機関員も一緒に歌いだす心温まる場面や、医務室で少年のナインティーン・ハンドレッドがドイツ人医師に名前を尋ね、その名前があまり長すぎるため「すごい!読んでいる間に死んじゃうね」と驚く場面。さらに、キッチンでケーキを盗んだナインティーン・ハンドレッドが船長に見つかり、彼の顔にケーキを投げつけて逃げるシーンなどが確認できる。
船で働く人たちみんながナインティーン・ハンドレッドを見守り、教育してきたことがよくわかるため、ダニーが亡くなったあとでも、彼が周囲に支えられて成長できたことに説得力を持たせている。ちなみに、ダニーが事故に遭った際に、機関員の1人がドイツ人医師を呼びに行くのだが、長過ぎて名前が言えないというシーンもあり、先述のナインティーン・ハンドレッドの言葉が本当になってしまう、シリアスながらユーモラスなやり取りも。
Blu-ray 発売中
価格:6,800円+税
発売・販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント