圧巻のビジュアル世界を誇る『落下の王国』…石岡瑛子の衣装、ロケ、演出に見る壮大すぎるこだわりとは?
目指したのはロイとアレクサンドリアの自然な関係性
世界規模のロケーションによる壮大な世界観も本作の魅力だが、ロイとアレクサンドリアの父子のような自然な関係性も素晴らしい。この作品でターセムが描きたかことの一つに、“語り手が語る物語が聞き手の影響を受ける”ということがあり、語り手となるロイと聞き手となるアレクサンドリアの関係性は、“自然体”であることが心がけられた。そのため、本作にはがっちりと固められたシナリオやセリフはなく、ストーリーの方向性を間違えなければ、演者たちがなにを言っても自由な現場だった。
その一環として、演技経験のないカティンカに役と一体になってもらうため、現実の世界をより物語に近づける試みがなされている。ターセムがペイスをロイ役にキャスティングした際には、“12週間”も動けないという条件が提示されており、トイレの時も誰かが介助を行うほどの徹底ぶりだった。それにより、カティンカをはじめ、衣装係など一部のスタッフ以外は、本当にペイスが足をケガしており、一人では動くことができないと信じ切っていたようだ。
カティンカの自由な反応に柔軟に合わせたペイス
また、劇中のアレクサンドリアと同じく、カティンカも父親を早くに亡くしており、大人の男性と接するのはペイスが初めてだったそう。その彼が(設定上は)身体障害者ということもあり、最初は怯え、近づこうとしなかったようだ。しかし、少しずつペイスに慣れていき、すぐに彼が大好きになった。病院でのシーンは順撮りで行われているため、アレクサンドリアとロイの距離が近づいていく様子は、そのままカティンカとペイスのリアルな関係性と言えるのだ。
中盤、ロイが癇癪を起す場面があるのだが、その時もカティンカは本当にペイスが怒ったと思い込んだという。そのシーンに映る固まった表情は心からのもので、恐怖心を抱いた彼女はすっかり演じることが嫌になってしまい、説得するのに3日間もかかったらしい。
一方のペイスは、カティンカの自由な反応に合わせて、柔軟に対応しなければならない。カティンカには、意味がわからない言葉があってもそれを知っているかのように振る舞うクセがあり、ある場面でペイス演じるロイが“魂”と言った時もそのような行動を取ったという。それを見逃さなかったペイスは、すかさず同じ話題を続け、彼女のさらなる反応を引き出すなど、状況に応じて即興で演技をしていた。また、クライマックスで彼が熱演を披露した際には、泣かないといけないカティンカが笑ってしまうので、数時間にわたって17テイクも繰り返したため、最後はクタクタに疲弊しきってしまったとか。
12月8日(火)午前1:59~(月曜深夜)
https://www.ntv.co.jp/eigatengoku/articles/536w8bnlordybvvltua.html
■「石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか」
https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/eiko-ishioka/