圧巻のビジュアル世界を誇る『落下の王国』…石岡瑛子の衣装、ロケ、演出に見る壮大すぎるこだわりとは?
ターセムの世界観を創造した石岡瑛子の功績
無国籍感あふれるターセムの頭の中の世界を現実に創造するにあたり、衣装デザイナーとして本作に携わった石岡瑛子の功績は大きい。石岡といえば、資生堂やパルコ、角川書店の広告グラフィックで活躍し、1980年代に入るとニューヨークに拠点を移して国際的に活動。映画や演劇の衣装デザインを手がけ始め、フランシス・フォード・コッポラ監督の『ドラキュラ』(92)では第65回米アカデミー賞の衣装デザイン賞を獲得し、2008年には北京オリンピック開会式のコスチュームディレクターにも抜擢されている。
ターセムは学生時代から石岡の作品集「Eiko by Eiko」をバイブルにするなど、彼女を尊敬してきた。その親交は彼の初監督作『ザ・セル』(00)で、石岡が連続殺人犯の脳内世界を表現したのに始まり、『インモータルズ 神々の戦い』や『白雪姫と鏡の女王』を経て、彼女が2012年に亡くなるまで続くなど、ターセムの作品になくてはならない存在だった。
ターセムが石岡に衣装デザインを依頼する際は、方向性のガイダンスを伝えるだけに留め、自由な発想を大事にしてきた。そのような彼のスタンスを石岡は高く評価しており、『落下の王国』のインタビューで「衣装が言語を主張する時と風景に溶け込む時のバランスを強弱つけながら、ビジュアルをうまく作り上げることができる」と語っている。本作の衣装を制作するうえでも、カウボーイと海賊が合体したような黒山賊の衣装や、蝶々をイメージしたダーウィンのコートなど、限られた製作費のなかでその才覚をおおいに発揮している。
ターセムが中心となって、こだわりにこだわりを重ね抜いた『落下の王国』。すでに国内でのパッケージ版権が切れており、本作を鑑賞できる機会は少なくなってきているが、12月8日(火)午前1:59から日本テレビ「映画天国」枠で地上波放送される。また、現在、石岡のクリエイティビティに迫る「石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか」が東京都現代美術館で開催されており、本作の衣装なども展示されている。映画と企画展、双方を体感することで、作品への理解がさらに深まるに違いない。
文/平尾嘉浩
12月8日(火)午前1:59~(月曜深夜)
https://www.ntv.co.jp/eigatengoku/articles/536w8bnlordybvvltua.html
■「石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか」
https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/eiko-ishioka/