米ワーナーが“ハイブリッド配給モデル”を導入した経緯は?『ゴジラ VS コング』『マトリックス4』など2021年の全作品を米劇場公開と同時配信へ
12月3日、ワーナー・ブラザーズ映画は、2021年内に公開を予定している全作品を米劇場公開と同時にアメリカでサービスを行っているストリーミング・サービス「HBO Max」で配信すると発表した。公開から1ヶ月間はHBO Maxで独占配信、その後PVOD(プレミアム・ビデオ・オン・デマンド)で有料配信される。HBO Maxの月額料金は14.99ドルで、追加料金はかからない。12月25日にアメリカで公開になる『ワンダーウーマン 1984』から適応になる。HBO Maxのサービスを行なっていない海外では劇場公開となる。
ワーナー映画が2021年に公開を予定している作品には、人気ゲームの映画化で浅野忠信、真田広之が出演する『Mortal Combat』、『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』(19)の続編『GODZILLA VS. KONG』(米国5月21日公開)、リン=マニュエル・ミランダのミュージカルの映画化『イン・ザ・ハイツ』(米国6月19日公開)、「死霊館」シリーズの続編『The Conjuring :The Devil Made Me Do It』(米国6月4日公開)、『The Suicide Squad』(米国8月4日公開)、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督、ティモシー・シャラメ主演の『DUNE/デューン 砂の惑星』(米国10月1日公開)、『The Matrix 4』(米国12月22日公開)などがある。
このハイブリッド公開モデルを導入した背景には、アメリカでの新型コロナウイルスの影響により、大都市部の映画館が3月以降閉鎖されたままの状況、そして今年5月にサービスを開始したものの利用者が増えていないHBO Maxのテコ入れがある。
ワーナー映画は9月にクリストファー・ノーラン監督の『TENET テネット』の劇場公開に踏み切ったが、ニューヨークやロサンゼルス、サンフランシスコなどの都市では映画を上映することができなかった。
ワーナー・ブラザーズ映画を経営する、ワーナー・メディアのアン・サーノフ会長兼CEOは、「このユニークな年間計画は、安定的に映画を配給することで映画館をサポートすると共に、映画館に行くことができない映画ファンにも素晴らしい映画を見る機会を提供することができます。革新的な対応に協力してくれた映画製作パートナーに非常に感謝しています」と述べている。
ワーナー・メディアのジェイソン・キラーCEOは、「2021年の映画鑑賞の状況とすべての選択肢を検討した結果、これが最善の映画事業計画であるという結論に達しました。重要なことは、年間を通して17本の注目作品を、映画ファンがそれぞれの楽しみ方を選択し、観賞方法を決めることができる点です。この配給モデルは映画ファンの皆様に利益をもたらし、映画館や映画製作者をサポートし、HBO Maxの体験を向上させ、すべての人が価値を見出せると考えています」とコメントを寄せた。
なお、本日の発表によってAMCやCinemarkなど劇場経営会社の株価は下落。アメリカ第3位のシネコン・チェーンCinemarkは、現在の状況をふまえ、各スタジオと1作品ごとに配給契約を結んでおり、まだ『ワンダーウーマン 1984』の上映合意に至っていない。
一方のAMCは『ワンダーウーマン 1984』のHBO Max同時配信のニュースの際には、早急に劇場公開を決めていたが、2021年を通じたハイブリッド配給モデルについては反対を表明している。Cinemark、AMCともに、ユニバーサル映画配給作品を、劇場公開から最短17日でPVOD配信する合意に達している。
また、現時点では米国内限定で運営されているHBO Maxだが、「2021年中にヨーロッパの一部とラテン・アメリカでサービスが利用できるようになる」と、同日に行われたオンライン講演でHBO Maxの国際部門責任者が明かした。アメリカでのサービス開始時と同様、HBOチャンネルのストリーミング・サイトHBO NowをHBO Maxにアップグレードすると見られている。
HBO Maxを経営するワーナー・メディアの親会社、AT&Tの第3四半期決算によると、米国におけるHBO(有料チャンネル)と月額14.99ドルのHBO Maxの加入者数は合計3800万人。HBO Maxのアクティベーション数(アプリのダウンロード、視聴サイトの設定)は860万人で、追加料金なしでHBO MaxにアクセスできるHBOの既存加入者の70%がまだサービスを利用していないことを表している。HBO Maxは先月ようやくAmazonにも対応し、Fire TVを通じた視聴者が増えると見込んでいる。このハイブリッド配給モデルを導入することによって、最新映画を劇場公開と同時に観られるサービスとしてNetflixやAmazon Prime Video、Disney+などの競合サービスと差別化を図る目的があると見られている。
文/平井 伊都子