不遇の傑作『市民ケーン』の革新性とは?デヴィッド・フィンチャー監督作『Mank/マンク』とあわせて観たい
『市民ケーン』を書くに至った脚本家の記憶をたどる物語
『ゴーン・ガール』(14)以来、フィンチャーにとって6年ぶりの監督作となる『Mank/マンク』。全編モノクロ映像でオンラインでの配信が主軸となるなど、彼にとって異例の作品だが、新聞社に勤務していた父ジャック・フィンチャーが書いた脚本が基になっており、思い入れの深い作品とも言える。また、“現代の『市民ケーン』”と称された『ソーシャル・ネットワーク』(10)を手掛けたフィンチャーが、独自の解釈でその背景に迫るという内容もおもしろい。
物語は、人里離れた牧場の一軒家でオールドマン演じるマンキウィッツが、ウェルズの初監督作となる脚本の執筆に取りかかるところから始まる。その数か月前、彼は交通事故に遭って一人では身動きできない状態にあり、ベッドの中で執筆を行いながら、1930年代のハリウッド黄金期で過ごした記憶が思い返されていく。
現在と過去の物語が同時進行で展開され、『市民ケーン』とのつながりも感じさせる本作。ケーンのモデルになったハーストをはじめ、その愛人で女優のマリオン・デイヴィス、映画製作会社MGMのトップで絶大な権力を保持していたルイス・B・メイヤーも登場し、マンキウィッツと彼らの交流や対立が映しだされていく。その中で、当時の州知事選でハーストやメイヤーらが、労働者の権利を訴える知事候補にとって不利となるフェイクのニュース映画を制作し、自分たちに有利な候補を当選させようと動く様子も描かれている。それに対して、マンキウィッツが激しく憤る姿が印象的で、その想いが『市民ケーン』につながったのでは?と想像させられる。
来年4月に予定されている第93回アカデミー賞の有力候補に早くも予想されるなど、高い評価を獲得している『Mank/マンク』。『市民ケーン』を抑えておくことはもちろん、当時の時代背景を知っておくとより深く作品を楽しむことができるはずだ。
文/平尾嘉浩
■Citizen Kane (70th Anniversary) - Trailer
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