【連載】『松本花奈の恋でも恋でも進まない。』第26回 まだ見ぬ妹よ、いつの日か
「DVD&動画配信でーた」にて好評連載中の、注目の若手監督・松本花奈による日々雑感エッセイ「松本花奈の恋でも恋でも進まない。」。第26回は、戸籍上、いる“らしい”妹について…!
第26回 まだ見ぬ妹よ、いつの日か
私には会ったことのない妹がいる、らしい。
「らしい」としか言えないのは、正確にそう伝えられたわけではなく、パスポートの更新をしに戸籍謄本を取りに行った際に認知している子供がいると書面上で知ったからだ。20数年の人生、一人っ子だと信じて生きてきたので、正直、だいぶ驚いた。だが、区役所を出る頃には実感が湧いてきて「会いたい!」という気持ちになっていた。ずっと抱えていた“一人っ子コンプレックス”なるものを消化させられるんじゃないかとも思った。全国の一人っ子の皆様には共感してもらえるだろうか。何かにつけて「一人っ子だからねえ」と言われるあの何とも言えない屈辱感を。
日に日に会いたい想いは強くなっていく。が、実際に会うにはいくつかの高いハードルを乗り越えなければいけない。第一に妹がいる場所のリサーチだ。当然両親に聞くのが手っ取り早いのだろうが、どうしてもタブーな気がしてこの話題を切り出せない。一度気になって書面に書かれた住所をGoogle Earthで調べたことがあったが、表札の名字は書面上の妹の名字とは違っていた。実際に行ってピンポンしてみようとも思ったが、その時はまだそこまでの度胸がなかった。第二に、会ったは良いもののとんでもない事態が発生した場合、収拾させられるだろうか、という不安だ。もし、妹の母親ないしは新しい父親がタチの悪い人だったら? もし、私が会いに行ったことが原因で妹が心を閉ざしてしまったら?など…。だが一方でこの事実を知ってしまった以上、一生このことに触れずにいるのも何だか違うような気がしている。
人生を変えた映画を3本挙げよ、と言われたら今の私は迷いなく3本ともドキュメンタリー映画(及びモキュメンタリー映画)を挙げるだろう。砂田麻美監督の『エンディングノート』(11)は立てなくなるほど号泣したし、石井達也監督の『万歳!ここは愛の道』(19)は未だに3日に一度はこの映画について考えてしまうほど衝撃を受けたし、岩切一空監督の『聖なるもの』(17)にはこれまで自分が信じて疑うことのなかった映画の概念をあっけなく変えられた。
ドキュメンタリー作品では企画者や監督自らがカメラを回す場合が多いが、あの手持ちの小さなカメラと身ひとつで被写体と向き合う、そんな行為にとてもゾクゾクさせられる。
もし自分がドキュメンタリー映画を撮るとしたら? やはりまだ見ぬ妹との再会までを撮りたいと思っている。どうなるかは分からない。ただ不思議と今は、カメラを手にした自分を想像してはワクワクしてならないのだ。
文/松本花奈
●松本花奈プロフィール
1998年生まれ。映像監督。主な監督作は映画『脱脱脱脱17』(16)、『キスカム!〜COME ON, KiSS ME AGAIN!〜』(19)など。放送中のWOWOWオリジナルドラマ『竹内涼真の撮休』では、第3&8話を演出。