妙な色気で観る者の心を掴むソン・ソック!大ブレイクした「私の解放日誌」から最新作『コメント部隊』までのキャリアを振り返る
2月14日(金)公開の韓国映画『コメント部隊』は、ソン・ソックの注目度を一気に上げた『犯罪都市 THE ROUNDUP』(22)以来、彼にとって約2年ぶりの出演映画だ。本作はオンラインの世論操作を題材にしており、真実とフェイクの確信が無いままネットの情報に踊らされて、簡単に世論の流れが変わってしまう恐ろしさを突き付けられる、ある意味とてもタイムリーな内容となっている。
原作は記者出身の作家チャン・ガンミョンの、2010年代初めに韓国で実際に起きた国家情報院の世論操作事件をモチーフにした同名小説。監督は、長編映画デビュー作『誠実な国のアリス』(15)で数々の映画賞を獲得したアン・グクチンが実に9年ぶりにメガホンをとった。ソン・ソックは、情報提供を元に大企業の不正を暴く特ダネ記事を書いたが誤報とされ、新聞社から追い出された記者のイム・サンジンを演じる。また、サンジンに接近するコメント部隊の青年役には、絶大な人気を誇るミュージカル俳優でもあり、近年は「地獄が呼んでいる」シーズン2や『梟-フクロウ-』(22)などでドラマや映画でも評価を上げているキム・ソンチョル。どこか信用できない雰囲気を出し、作品に緊張感を加えている。
本稿では、ここ数年間「私の解放日誌」と「D.P. -脱走兵追跡官-」シリーズや『恋愛の抜けたロマンス』(21)など、様々なジャンルの作品に出演し韓国で最も注目されるトップスターに仲間入りしたソン・ソックのキャリアを振り返りつつ、最新作『コメント部隊』の見どころを紹介していきたい。
“爪痕を残す俳優”と呼ばれるソン・ソックの、ドラマ以上にドラマティックな経歴
ソン・ソックは1983年生まれの42歳。中学の途中でアメリカに留学し、世界7大美術大学と呼ばれるシカゴ芸術大学でドキュメンタリーを専攻した。在学中に兵役に行く事になり、イラクのザイトゥーン部隊に志願して半年間滞在した。
除隊後、韓国社会に適応できず、逃げる口実として「バスケットボール選手になる」と言って弟が居るカナダへ。この時既に26歳。基礎もできていないのにプロ選手になれるはずもなく、練習が終わった後のヒマな時間に演技塾に通うようになった。大学時代は演技が嫌いで仕方なかったのに、ここでは演じる楽しさに目覚め、ビザを取り直して、バンクーバーの学校の演技科に入学した。この時の先生に言われた「良い人になってこそ演技が上手になれる」という教えは、いまでも彼のなかに根付いている。
韓国に戻り俳優を目指すも、当時何の特徴も無かった彼はオーディションにも落ちまくり、次第に「どうせ行っても…」と、1日中天井だけ見て過ごすように…。俳優を諦めようとした2017年、Netflixのアメリカドラマ「センス8」のオーディションに合格。35歳で人生が開き始めた。
翌年2018年に、ドラマ「マザー ~無償の愛~」でDV男を演じたのを皮切りに、いくつものドラマに出演。「恋愛体質~30歳になれば大丈夫」で演じた映画監督役は、本来は1回限りのゲストの予定だったのだが、視聴者の評判が良く、その後も度々出演する事になった。この作品でのコミカルな演技のシーンは動画サイトで1000万回以上再生されている。
こうして“爪痕を残す俳優”としてキャリアアップをするなか、2021年に「D.P. -脱走兵追跡官-」で粗暴な大尉・ジソプ役で、一気に視聴者の関心を集めた。まだ知名度も低く、演技を超えたリアルさで「本物の大尉?」「俺の訓練所の補佐官かと思った」など、気になる視聴者が続出。これは徹底した役作りの賜物。かつて所属していた隊の小隊長を訪ねて、話し方や相手との心理戦など、リアルに見えるアドバイスを受けたそうだ。
2022年、「私の解放日誌」と『犯罪都市 THE ROUNDUP』で遂に大ブレイク
そして2022年、何か過去があるようで陰があり無愛想で無口だが、その奥には優しさも感じさせて、世間の女性たちを沼らせた“ク氏”を演じた「私の解放日誌」と、極悪非道で観客を恐怖で震え上がらせた再恐ヴィラン、カン・ヘサンを演じた『犯罪都市 THE ROUNDUP』が、ほぼ同時期に解禁され、男性も女性もソン・ソックという新たなスターに熱狂した。特に女性は、ク氏とソン・ソックを重ね合わせ、「私の住所は、ソウル市ソンソッ区愛の町」という流行語も生まれたほどだった。
しかしこの時期、彼はフィリピンに缶詰め状態で「カジノ」を撮影しており、この熱狂を全く知らなかったとか。ただ、「私の解放日誌」撮影当時、監督に「きみはこの作品で人気が出るから、行動には気を付けなさい」と言われていたそうで、慎重に行動するようにしていたそうだ。
「私の解放日誌」は人気の面だけではなく、彼に大きな影響をいくつも与えたようだ。最も大きかったのは「言葉を吟味しながら演じる事」。役柄を充分理解できていない自覚がある時は早口になってしまい、監督に指摘された。難しい台詞であればあるほど、丁寧に伝えなければならないと学んだそうだ。