各国映画祭からサイン会、完全リモート撮影の作品まで…映画界で採用された「オンライン手法」

コラム

各国映画祭からサイン会、完全リモート撮影の作品まで…映画界で採用された「オンライン手法」

イベントで発揮されたオンラインという強み

毎年サンディエゴで行われていたコミコンは、今年は「コミコン@ホーム」という形に
毎年サンディエゴで行われていたコミコンは、今年は「コミコン@ホーム」という形に「コミコン@ホーム」スクリーンショット

映画に関するイベントからも、オンライン化の波を感じ取ることができる。その代表的な例がアメコミ、映画、ドラマなどに関するパネルトークやブースが出展されるコンベンションイベントだ。例年、米サンディエゴで行われているコミコンは、今年は「コミコン@ホーム」として、インターネットからアクセスできる形で開催。毎年、高額なチケットが一瞬で売り切れてしまう大人気イベントゆえに、限られたファンしか参加できない狭き門であったが、これにより誰でも参加できるという利点をもたらした。

また、数々のコンベンションのなかでも好評を集めたのが、DCとワーナーが行った独自のバーチャルイベント「DCファンドーム」だ。DC関連の映画やゲーム、ドラマ、コミックに関する最新情報など100時間以上にもおよぶ映像コンテンツが用意されたこのイベントは、全世界視聴者数2200万人を突破する大成功を収めた。

「DCファンドーム」というインターネット上のバーチャルイベントも開催された
「DCファンドーム」というインターネット上のバーチャルイベントも開催された

『ワンダーウーマン 1984』(公開中)のパネルディスカッションや最新映像の解禁、『The Batman』の予告初公開、『The Suicide Squad』の映像解禁や主要キャストの発表などに、国ごとのオリジナルのコンテンツまで、世界中からアクセスできるという点を踏まえた盛りだくさんの内容となったこのコンベンション。そのコンテンツの豊富さゆえに急遽2回目が催されると、期間内であれば好きな時間に好きな映像を視聴者が選べるという形に進化。オンラインイベントならではの新しい形を提示した。

さらに、こちらもインターネット上での開催となった「東京コミコン」では、ゲストがサインをしている模様がチケット購入者に限定で公開され、そのサイン入りアイテムがのちに自宅に郵送されるという“バーチャルサイン会”を導入。また「GalaxyCon」では、ビデオ通じて俳優たちと1対1で会話ができるオンラインでのグリーティングが催されたりと、新たな形のファン交流が生まれていった。


リモート制作された映画も次々と誕生!

【写真を見る】リモート制作映画が多く誕生!Zoomを用いた新感覚ホラー『ズーム/見えない参加者』の場面写真
【写真を見る】リモート制作映画が多く誕生!Zoomを用いた新感覚ホラー『ズーム/見えない参加者』の場面写真[c]Shadowhouse Films and Boo-Urns 2020

模索を続けるうえで、映像制作においても「リモート」という手法が用いられるように。5月には『カメラを止めるな!』(18)の上田慎一郎監督が、本作のキャスト&スタッフを再集結させて作り上げた短編スピンオフ『カメラを止めるな!リモート大作戦!』(20)がWeb上で公開。ビデオ通話ソフトの映像や、それぞれがスマホのカメラで撮影した映像をつなぎ合わせる完全リモート体制で制作されており、『カメラを止めるな!』の世界観を、新型ウイルスが猛威を振るう現実に落とし込んだ物語も没入感を生んだ。

このほかにも多くの監督がリモートでの映像制作に着手しており、行定勲監督は『きょうのできごと a day on the planet』(03)と世界観を共有するショートムービーシリーズ「A day in the home Series」を制作。『きょうのできごと a day in the home』、『いまだったら言える気がする』(20)、『映画館に行く日』(20)と、3作を立て続けに発表した。

ほぼ全編リモートで撮影された、岩井俊二監督の『8日で死んだ怪獣の12日の物語』
ほぼ全編リモートで撮影された、岩井俊二監督の『8日で死んだ怪獣の12日の物語』画像はTakumi Saitoh 斎藤工/齊藤工(@takumisaitoh_official)公式Instagramのスクリーンショット

劇場公開もされた岩井俊二監督による『8日で死んだ怪獣の12日の物語』(20)や、三木聡、園子温、真利子哲也、中野量太、映像制作ユニット「非同期テック部」(ムロツヨシ、真鍋大度、上田誠)という個性豊かな作り手が緊急事態宣言をテーマに、各々のクリエイター魂を爆発させ作り上げたオムニバス作品『緊急事態宣言』(20)など、密を避けるスタイルで制作された意欲作が続々とリリースされた。加えて、映画制作に必要な本格的な機材がなくとも映画を作れるということもあり、インディーズの作り手たちによるリモートの状況をいかしたユニークな作品も生みだされていった。

2021年1月15日(金)から公開される『ズーム/見えない参加者』もそんな作品の1本だ。新型コロナウイルスによって一気に有名になったWeb会議ソフト「Zoom」を用いたホラーで、ロックダウンされたイギリスで6人の男女がオンライン交霊会を行ったところ、次々と不可解な現象が起きていく。

カメラワークなどリモートならでは工夫が随所に施されている『ズーム/見えない参加者』
カメラワークなどリモートならでは工夫が随所に施されている『ズーム/見えない参加者』[c]Shadowhouse Films and Boo-Urns 2020

17歳で初監督を務めた『Strings』(12)が、英国インディペンデント映画賞レイダンス賞を史上最年少で受賞した逸材、ロブ・サヴェッジ監督が手掛けた本作は、全編Zoom上で撮影されている。リモートという大きな制限が課されることから、これまでの映画制作以上に綿密な打ち合わせが行われたそう。また、Zoomならではのカメラワークを利用したスタントなど制限を強みに変えており、現代ホラーの第一人者ジェイソン・ブラムも絶賛。いまだからこそ観ておきたい作品だ。

コロナ禍において、映画産業はいまだ大きな危機を迎えているが、この状況を逆手に取った新たな映像表現やエンターテインメントの可能性を広げるようなムーブメントも生まれている。この困難が過ぎ去った時、今回獲得した様々な手法が、よりエンターテインメントを良いものにしてくれることを願いたい。

文/サンクレイオ翼

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