松山ケンイチと本広克行監督が語り合う、ものづくりの喜びと三浦春馬への想い
「悩んだり挫折したりした経験こそ、宝物になるのではないかと」(松山)
――高校生と武士たちの熾烈な戦いを観て、松山さんはどんなことを感じましたか?
松山「僕は子どもがいるので、どうしても親目線で観てしまいますが、けっこう辛いなと思いました。深作欣二監督の『バトル・ロワイアル』を初めて観た時の感覚が蘇った感じです」
本広「でも、原作の漫画のほうがもっとエグいんですよ。最初は R-18指定の、ある種ホラー映画のように作るのもいいかなと思ったんですが、プロデューサーからダメですと言われたので、映倫に引っかからないように(笑)、ギリギリのところで編集しました」
松山「高校生は、それぞれの部活の経験者なんですか?説得力があって、演技だけではない空気感がよく出ていたと思いました」
本広「ほぼ全員が経験者です。アメフトのリーダー役だけは、柔道の日本一を獲った子ですが、最初は芝居が全然できなかったので、演出部全員で徹底的にしごいて、彼を役者にしました」
松山「きっと演出部も、このままだとマズイと思ったんでしょうね(苦笑)。彼自身も相当プレッシャーを感じながら頑張ったと思いますが、そういうふうに上から叩かれ、悔しい思いをしたことが、彼にとってはすごく良かったんじゃないかなと」
――松山さんも若いころはそういうことを経験されましたか?
松山「もちろんです。でも、最初から成功して、スルスルいってしまうとおもしろくないだろうし、誰だって怒られたくはないと思いますが、悩んで挫折した経験こそ、宝物になるのではないかと思っています。僕自身もそういう経験をしたことはよく覚えているし、いまでも『ああ、くそーっ』と思うことはあるけど、逆にそれがなくなってしまったら、役者の仕事自体がおもしろくなくなってしまう気がします」
「新田真剣佑は天才。すばらしいアクションでした」(本広)
――アクションシーンで言えば、やはり新田真剣佑さんはとてもキレが良かったです。
本広「こんな役者がいるんだ!と感動するぐらい、彼のアクションはすばらしかったです。きっと『巨人の星』の星一徹ばりに、お父さん(千葉真一)が子どもの頃から厳しく教えてきたのかなと。お父さんに石を投げられて、それをよけるという訓練もしていたそうですし、ビンタするシーンの叩かれ方も、全部ギリギリのところで身をかわせるんです。どんな殺陣もすぐに覚えてしまうので、周りが追いつくのが大変でした。まさに天才ですが、自分の役者としての弱点もわかっているんです」
――弱点はどんなところなんですか?
本広「感情表現の微妙なニュアンスが出にくいので、そこを見てほしいと言われました。きっと顔が整いすぎているからだと思いますが、確かにそういうシーンでは『もっと深くいこう』という指示を出しました。彼は英語も話せるし、いろんな才能を持っているから今後も楽しみですね」
――松山さんは、新田さんとの共演シーンで、どんな印象を受けましたか?
松山「目がきれいだなと思いました。だから『良き目をしている』という台詞を素直に言えたんです。今後もあのままで、汚れないでいてほしいと思いました」
本広「あのシーンは、蒼が信長に威圧されるシーンで、覚悟を決めて信長に強い視線を向けるシーンでしたが、すごくカッコ良かったです」
「新田くんは、本当に春馬くんのことが大好きでした」(本広)
――本作では信長と並び、三浦春馬さん演じる徳川家康も、重要な役どころでした。新田さんは三浦さんのことを心からリスペクトされていたので、初日舞台挨拶の最後に、新田さんがなにかを言わんとして言葉に詰まった一幕が心に残りました。
本広「あの時は僕も泣けてきて、なんのフォローも入れられませんでした。」
――本広監督は、本作のテーマに“継承”を挙げていますが、まさに三浦さんの想いが、新田さんに受け継がれていく気がします。
本広「そうですね。役柄でもそうですが、新田くん自身も春馬くんを見て、本当の役者になりたいと思ったそうなので。また、実際に地球ゴージャスの舞台『星の大地に降る涙 THE MUSICAL』で春馬くんが演じたシャチ役を、新田くんが受け継いでいます」