アカデミー賞に16作品を送り込んだNetflixから、チェックすべき作品を一挙におさらい
例年より2か月ほど遅れての開催となった今年のアカデミー賞。Netflix作品も数多く選出され大きな話題となった。そんななかから、注目のタイトルを取り上げていきたい。
今年も豊作!Netflixのノミネート作品をおさらい
今年のアカデミー賞候補に選ばれたNetflixオリジナル映画たちを、まずはおさらいしていきたい。作品賞をはじめ、デヴィッド・フィンチャーの監督賞、ゲイリー・オールドマンの主演男優賞など最多10部門にノミネートされ、美術賞・撮影賞の2部門を受賞した『Mank/マンク』、ベトナム戦争への抗議運動から逮捕・起訴された男たちの裁判を描き、作品賞や脚本賞など6部門にノミネートされたアーロン・ソーキン監督の『シカゴ7裁判』などが有力候補として挙げられる。
さらには、昨年8月にこの世を去ったチャドウィック・ボーズマンが主演男優賞最有力とされ、またヴィオラ・デイヴィスの主演女優賞など5部門で候補となり、衣装デザイン賞、メイクアップ&ヘアスタイリング賞の2部門を受賞した『マ・レイニーのブラックボトム』、撮影賞など技術系で4ノミネートの『この茫漠たる荒野で』など、全23部門のうち、国際長編映画賞と短編実写映画賞を除く21部門に16作品がノミネートされた。
なかでも、脚色賞候補に選出された『ザ・ホワイトタイガー』に注目したい。先に名前を挙げたタイトルに比べると知名度こそ低いが、その質の高さはさすがNetflixというべき作品だ。
インドの貧困をシビアに描く『ザ・ホワイトタイガー』
『ザ・ホワイトタイガー』は、アラヴィンド・アディガによるベストセラー小説「グローバリズム出づる処の殺人者より」が原作。世界で最も権威のある文学賞のひとつ、ブッカー賞を受賞したこの小説を、著者と大学時代から親交があったというラミン・バーラニが監督・脚本・製作の3役を兼務し映画化している。
バーラニ監督は、これまで『ドリーム ホーム 99%を操る男たち』(14)でサブプライムローン問題を扱い、『チョップショップ〜クイーンズの少年』(07)ではヒスパニック系の孤児の姉弟を主人公に彼らの厳しい生活を描くなど、貧困をテーマに作品を作ってきた人物。今回の『ザ・ホワイトタイガー』でもその作家性が発揮されており、貧しい生まれの主人公がどのようにして実業家に成り上がったのか?彼の独白から幕が開き、その真実が徐々に語られていくという、観る者の興味を誘う巧みな構成で描かれていく。
インドの貧しい家系に生まれたバルラムは、頭の良さを生かし奨学金で教育を受けるチャンスをつかみかけるが、父の死によって働きに出ることに。それから月日が流れ、青年になったバルラムはこの生活から抜け出すため、村を牛耳る地主一家の運転手の仕事を獲得。アメリカ帰りで友好的な一家の次男の運転手となるが、ある惨事に巻き込まれてしまう…。
貧困から抜け出せない…インドの実情をリアルに描く
劇中で何度も主人公の口から語られる「インドのカーストは2つ、腹が膨れているか、平たいか」という言葉が示す通り、インドの激しい貧富の格差が突きつけられていく本作。その構造の根底にあるのが、カーストや宗教による差別。保守的な価値観の存在により、苦しい生活から簡単には抜け出せないインドの現実がシビアに綴られていく。
また、インド・アメリカ合作の本作には、インド人のスタッフも多く名を連ねており、例えば、パーンという噛みタバコのような嗜好品が、裕福な者たちとの暮らしぶりの違いを示すアイテムとして登場するなど、貧困層のリアルを感じさせる描写も多い。オリエンタルな神秘の国としてインドを描いてきた、これまでの作品たちとは一線を画す仕上がりとなっている。
極貧な家庭に生まれ運転手となった主人公が、実業家になるため選んだ方法とは?エンタメとしてのおもしろさはもちろん、いろいろと考えさせられる作品となっている本作を、ぜひチェックしてみてほしい。
文/サンクレイオ翼