竹中直人、山田孝之、齊藤工が語り合う、3人で監督して叶えた夢「人生捨てたもんじゃないぜ!」
竹中直人監督、山田孝之監督、齊藤工監督が、カルトな人気を誇る漫画家、大橋裕之の初期作集「ゾッキA」「ゾッキB」を、3人で共同制作した映画『ゾッキ』(公開中)。オムニバスではなく、1本の映画をパートごとに分けて監督するというユニークなスタイルを取った本作について、3人の監督に制作秘話を聞いた。
竹中監督は、ある少年と父親(竹原ピストル)との奇妙な思い出を振り返るという奇想天外なパートを、山田監督は、ママチャリでただ南を目指していく青年(松田龍平)と旅先での出会いを、齊藤監督はある高校生(森優作)が「自分に姉がいる」という嘘を友人(九条ジョー)についたことから始まる友情の物語を紡ぎ上げた。脚本を手掛けたのは劇作家の倉持裕で、これら3つのエピソードをそれぞれ伏線にして、非常に重層的なドラマにまとめあげた。
3人の監督の下、吉岡里帆、鈴木福、満島真之介、石坂浩二、國村隼ら多彩なキャストが集結し、Charaが音楽監督を務めた本作。ロケは大橋の生まれ故郷である愛知県蒲郡市で敢行された。
「孝之と工がOKしてくれないかぎり、映画化は絶対に無理だった」(竹中)
――まずは竹中さんに、山田さんと齊藤さんと共作されることになった経緯についてお聞きしたいです。
竹中「大橋さんの『ゾッキ』に出会い、とても感動したんです。ショートストーリーなので、初めはオムニバス映画として企画を考えました。2人には『役者3人が監督するオムニバス映画に参加してくれないかとお願いしました。すでに脚本は倉持さん、音楽はCharaにお願いしていて、大橋さんの世界をみんなで作ろうという思いでしたね」
山田「僕も原作を読んで、めちゃくちゃすてきな話だと思い、これは絶対に映像化したほうがいいと思ったのですが、僕自身は長編映画の監督経験がなく、自分は監督に向いていないと思ったので、監督ではなくプロデューサーとして皆さんを支える立場で参加したいとお伝えしました。でも、竹中さんが熱い感じで『いや、監督で』とおっしゃられたので、せっかくだから挑戦してみることにしました」
齊藤「僕は、竹中さんからお声掛けいただいた時の場所が印象的でした。Charaさん、安藤政信さん、倉持さん、山田さんたちがいた場所がまるで秘密基地のようで、僕はいま、すごい船の切符をもらったんだなと、非常に好奇心をそそられました。また、大橋さんとは共演経験があり、僕自身が大橋作品のファンでもあったので、理屈抜きで参加したいと思いました」
――監督筆頭である船長の竹中さんの存在も大きかったのでは?
山田「もちろんそうです。声をかけてくださったこと自体がうれしくて」
竹中「今回は孝之と工がOKしてくれないかぎり、映画化は考えられなかった。引き受けてくれた2人には心から感謝しています」
「監督でプロデューサーというより、プロデューサーで一部監督、という割合で参加しました」(山田)
――山田さんは、本作のプロデューサーも兼任されていますね。
山田「はい。自分が撮るパート以外の撮影日もプロデューサーとして入り、現場でお手伝いをさせてもらいました。僕は長編初監督だったので、勉強もさせてもらいたかったし、途中で伊藤(主税)プロデューサーと営業に行ったりもしました」
竹中「孝之は撮影後の機材撤収も最後まで手伝ってくれました。プロデューサーとして、静かに現場を見守ってくれている感じでしたね」
齊藤「確かにそうでした」
――齊藤さんはいかがでしたか?
齊藤「3人とも生業が俳優の監督で、それぞれがいかにしてクリエイティブの持ち味を発揮していくかというプロジェクトだったから、そのバランスでの心地良さを感じつつも、自分は作品に対してどう貢献できるんだろうとも考えました。それで僕はドローンを持ち出して、撮影したりもしましたが、なによりもお2人の本作への関わり方が、一監督のあり方を遥かに凌駕していたので、準備段階からすごく心強かったです」
山田「僕はどちらかというと、監督でプロデューサー兼任というよりは、プロデューサーで監督も一部します、という割合での参加でした。伊藤プロデューサーと一緒に地域と連携してやっていくなかで、齊藤監督から『託児所を用意できないでしょうか?』という提案をいただきました。確かに小さいお子さんがいるスタッフやキャストもいらっしゃるし、日本はそういう点で遅れを取っていると思っていたのですが、齊藤監督のおかげで、実際に行動に移せたんです」