「のだめカンタービレ」「セーラームーン」今千秋監督が明かす、「極主夫道」で挑戦した“絵を動かさない”アニメーション作り

インタビュー

「のだめカンタービレ」「セーラームーン」今千秋監督が明かす、「極主夫道」で挑戦した“絵を動かさない”アニメーション作り

かつて裏社会で恐れられ、いくつもの組を潰した伝説を持つ元極道でありながら、専業主夫となった男、龍の日常を描くアットホームなギャグコメディ。コミックス全体の売上が360万部を突破し、昨年には実写ドラマ化もされて大きな話題を呼んだ、おおのこうすけ原作の「極主夫道」が、Netflixのオリジナルアニメシリーズとして、全世界独占配信中だ。

Netflixオリジナルアニメシリーズ「極主夫道」は、全世界独占配信中!
Netflixオリジナルアニメシリーズ「極主夫道」は、全世界独占配信中![c]おおのこうすけ/新潮社

待望のアニメ化にあたって監督を務めたのは、テレビアニメ「のだめカンタービレ」や『劇場版「美少女戦士セーラームーン Eternal」』(前後編共に公開中)など、数々の話題作を手掛けるアニメーション監督の今千秋。これまでに多くの人気コミックをアニメ化してきた彼女に、「極主夫道」の魅力やアニメ版への想いを聞いた。

「龍って、ボケとツッコミのボケのほうなんだ!」

主人公で、元最凶の極道ながらいまは専業主夫として家事に勤しむ龍
主人公で、元最凶の極道ながらいまは専業主夫として家事に勤しむ龍[c]おおのこうすけ/新潮社

主人公の龍は、いまなお“不死身の龍”と語り継がれるほどの元最凶極道。しかし、彼は極道から足を洗い、キャリアウーマンの美久と結婚して、専業主夫へと転身。現在は主夫の道を極めるため、掃除、洗濯、買い物に料理と、毎日の家事に一生懸命取り組んでいる。見るからにコワモテの外見に反して、きめ細やかなところがあり、家事能力は抜群。町内婦人部のおばさまたちとも仲良く交流している姿には、思わずクスッと笑ってしまう。

「アニメ化のお話をいただいたのと同時期に、同級生の主婦友たちから『この漫画がおもしろいよ!』と聞いていて、『おお…!普段漫画を読まない人たちも読んでいる有名作品なのか!』と、身構えました」という今監督。「実は、最初に原作を読んだ時は、龍のキャラクターが自分のなかで捉えきれていなくて…。はたしてギャップ萌えという理由でおもしろいのか、どうなのか。ちょっと、フワッとしていたところがあったんですね。でも、巻を重ねるごとに、また仕事で何回か読み返しているうちに『あ、龍って、ボケとツッコミのボケのほうなんだ!』となんとなく理解でき、龍のキャラがスッと入ってきて、話が転がりやすくなりました」。

【写真を見る】あえて動かない絵を目指した?漫画から飛び出したような「極主夫道」の演出に注目
【写真を見る】あえて動かない絵を目指した?漫画から飛び出したような「極主夫道」の演出に注目[c]おおのこうすけ/新潮社

「漫画どおりに、動かさずにアニメーションにするというのは難しかったです」

アニメ版を観てまず驚かされるのが、漫画のコマ割りのような絵を意識した、あえて“動かない”演出だ。「アニメ制作会社J.C.STAFFのプロデューサー、松倉友二さんからは、前に一緒に制作したテレビアニメ『Back Street Girls‐ゴクドルズ‐』のような絵作りにしたい、というオーダーがあったんです。でも、『ゴクドルズ』は動きよりも台詞や設定などの破壊力に特徴があり、そこがおもしろい作品だったのですが、『極主夫道』はキャラクターが結構アクロバティックに動く作品だったので、それを漫画どおりに、動かさずにアニメーションにするというのは難しかったですね。止まっているけれど、いかに動いているように見せるか、カメラワークやタイミング…飽きさせないようにテンポ感を保つのが大変でした」。


八百屋で真剣にキャベツを吟味する龍
八百屋で真剣にキャベツを吟味する龍[c]おおのこうすけ/新潮社

一見、なめらかに動く絵作りよりも、動かない絵作りの方が楽なのではないかと思ってしまいそうになるが、そんなことはまったくない。
「テレビアニメの大半は1話30分ですが、『極主夫道』は約半分の15分弱。通常のアニメだったら、だいたい300カット前後あるのですが、『極主夫道』は半分の長さなのに250カットもありました。もし、『極主夫道』を30分アニメでやるとしたら、500カットぐらいかかってしまうことになる。500カットって…なかなか豪華な劇場作品ができるくらいのカット数だし、普通に制作から怒られるレベルかと思います(笑)。特に複雑な動きになってくると、『普通に動かしたほうが楽じゃん!』という感じでしたね」。

ミシン縫いもお茶の子さいさいの龍
ミシン縫いもお茶の子さいさいの龍[c]おおのこうすけ/新潮社

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