マーゴット・ロビー、クレア・ダンら、女優としてもクリエイターとしても活躍する映画界の才女たち
『ノマドランド』(公開中)のクロエ・ジャオと『プロミシング・ヤング・ウーマン』(7月16日公開)のエメラルド・フェネルがアカデミー賞監督賞候補に選出され、オスカーの歴史で初めて複数の女性が監督賞に同時ノミネートされるという新たな一歩を刻んだ。
2020年の興行収入トップ100に携わった映画監督の割合のうち女性は16%とまだまだ低いが、それでも19年の12%、18年の4%という数字比べると少しずつ女性クリエイターに光が当たり出していることが分かる(アメリカの研究センター「Center for the Study of Women in Television and Film」の発表より)。そんななか、『リリーのすべて』(15)などへの出演でも知られるエメラルド・フェネルのように、近頃は俳優だけでなく監督やプロデューサーとしても手腕を発揮している女性クリエイターたちの活躍が目覚ましい。注目作も続々公開されるので、そんな才気あふれる人物にここではスポットを当てていきたい。
アイルランドの新鋭など女優としても活躍するクリエイターたち
女優としてはもちろん、監督としてより大きな存在感を放っているクリエイターとして、まず第一に名前が思い浮かぶのがグレタ・ガーウィグだ。ノア・バームバック監督の『ベン・スティラー 人生は最悪だ!』(10)でヒロインを演じ脚光を集めた彼女は、『ハンナだけど、生きていく!』(07)で脚本を担当するなど、もともと制作者寄りの人物。
主演を務めたノア・バームバック監督の『フランシス・ハ』(12)や『ミストレス・アメリカ』(15)でも共同脚本で確かな手腕を発揮すると、自分の経験を随所に盛り込んだ初の単独監督作『レディ・バード』(17)ではアカデミー賞で監督賞、脚本賞にノミネートされるなど並外れた才能を発揮。名作「若草物語」に現代的なメッセージを盛り込んだ『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』(19)などの傑作を手掛けている。今後もバービー人形の実写版やタップダンスを題材としたミュージカルでメガホンを取ることが決定しており、どんな作品を生みだしてくれるのか楽しみな人物だ。
そんなグレタのように、クリエイター業に軸足を置いている新鋭として、ドラマ「Fleabag フリーバッグ」で出演・脚本・制作を手がけ注目され、『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』の共同脚本にも抜擢されたフィービー・ウォーラー=ブリッジや、ドラマ「GIRLS/ガールズ」や『タイニー・ファニチャー』(10)のレナ・ダナムといった名前が挙げられる。『サンドラの小さな家』(公開中)で主演・脚本・企画を担当しているクレア・ダンも、「VOGUE」誌の「2021年のライジングスター15」にも選ばれるなど脚光を浴びる才能の一人だ。
アイルランド・ダブリン出身のクレアは、これまで主に舞台女優として活躍しており、シェイクスピア劇を女性のみで演じるという実験的な三部作「ジュリアス・シーザー」(12)、「ヘンリー4世」(14)、「テンペスト」(16)への出演や、アイルランドのゼロ時間契約や生活苦を扱った社会派の一人芝居「Sure Look It, Fuck It」(18)を作り上げるなど、個性的かつ一石を投じるような作品と関わってきた。
そんなクレアが、3人の子どもを抱えながらもホームレスとなってしまったという友人の話から抱いた、社会のシステムへの疑問を脚本にぶつけたのが『サンドラの小さな家』だ。夫のDVから2人の娘とともに逃れたものの、公営住宅には長い順番待ちがあり、ホテルでの仮暮らしから抜け出せないサンドラ(クレア・ダン)。ある日、娘のために読んでいた絵本から自ら家を建てることを思い付くと、サンドラがヘルパーとして働く家の主のペギー(ハリエット・ウォルター)や偶然知り合った建設業者のエイド(コンリース・ヒル)ら、仲間の力を借りながら、小さな家を作っていく。
暴力によって身体にも心にも傷を負ったシングルマザーをさらに傷つける無慈悲な社会のシステムや人間の残酷さと共に、そんな状況でも自ら家を建てることによって、支えてくれる人や居場所を見つけ、まさに人生を再建していく…という一筋の希望が描かれる本作。経済学者を訪ねて社会の制度やコミュニティの在り方を学ぶなど、徹底的なリサーチを行ったクレアによって書き上げられた脚本は、セリフや人物像にフィクションとは思えないリアリティがあり、それゆえに心を震わせる傑作となっている。