【今週の☆☆☆】魂のドラマ『茜色に焼かれる』、稀代のアクションスターが躍動する「ジャン=ポール・ベルモンド傑作選2」など、週末観るならこの3本!

コラム

【今週の☆☆☆】魂のドラマ『茜色に焼かれる』、稀代のアクションスターが躍動する「ジャン=ポール・ベルモンド傑作選2」など、週末観るならこの3本!

週末に観てほしい映像作品3本を、MOVIE WALKER PRESSに携わる映画ライター陣が(独断と偏見で)紹介します!
週末に観てほしい映像作品3本を、MOVIE WALKER PRESSに携わる映画ライター陣が(独断と偏見で)紹介します!

MOVIE WALKER PRESSスタッフが、週末に観てほしい映像作品3本を(独断と偏見で)紹介する連載企画。今週は、生きにくい現代日本でもがきながらも懸命に生きる母子を描いた石井裕也監督の人間ドラマ、フランスの伝説的なスターがスクリーンで大暴れする大人気特集上映の第二弾、Netflixで配信中の予測不可能なSFスリラーを紹介!

尾野真千子が「母親」の孤独な闘いを全身全霊で体現する…『茜色に焼かれる』(公開中)

強い信念を持つ良子を演じる尾野真千子に圧倒される『茜色に焼かれる』
強い信念を持つ良子を演じる尾野真千子に圧倒される『茜色に焼かれる』[c]2021『茜色に焼かれる』フィルムパートナーズ

この世の中は、理不尽な常識やルールに溢れている。人はそれでも、この歪んだ社会の中で生きていかなければいけないが、石井裕也監督ほどその命題と向き合い、映画と自分との最も相応しい関係や距離を模索しながら「生きる」ということを表現し続けている監督はいないだろう。特に近年の『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』(17)、『生きちゃった』(20)ではその傾向がますます顕著で、生々しさも倍増。そして……石井監督が36歳で他界した自らの母親の“生”を重ねた、本作のヒロイン・良子はその最も象徴的な存在だ。夫を理不尽な交通事故で亡くした彼女は、痴呆症を理由に逮捕されなかった加害者の元官僚側から賠償金は一切受け取らず、コロナ禍で経営していたカフェが破綻したり、花屋のバイトを納得のいかない理由でクビになりながらも逞しく生きていく。ドラマ「おかしの家」(15)でも石井作品の重要キャラを担っていた尾野真千子が、「この人しかいない!」という監督のオファーに応えるように良子の孤独な闘いを全身全霊で体現。彼女の姿に何を思うのか?は観た人次第だが、少しでも彼女に共鳴したのなら石井監督のエッセイ集「映画演出・個人的研究課題」(朝日新聞出版)も読むことをオススメする。監督の想い、揺るぎない姿勢を知ることで、本作の深みがさらに増すはずだから。(映画ライター・イソガイマサト)

何をやっても“絵”になる名優がスクリーンの中の自由を体現する…「ジャン=ポール・ベルモンド傑作選2」(公開中)

アジア各国をまたにかけて繰り広げられる大冒険活劇!『カトマンズの男』
アジア各国をまたにかけて繰り広げられる大冒険活劇!『カトマンズの男』LES TRIBULATIONS D’UN CHINOIS EN CHINE a film by Philippe de Broca [c]1965 TF1 Droits Audiovisuels All rights reserved.

昨年大好評を博した「ジャン=ポール・ベルモンド傑作選」の第2弾が現在開催中!ベルモンドとは現在88歳、フランスの英雄的存在で世界映画史に殿堂入りしている何をやっても“絵”になる名優だが、もうひとつ、今日で言う「コンプライアンス」を完全無視、スクリーンの中の自由を体現した稀代のアクション・スターでもあるのだ。
とにかく陸海空、生身で危険なことを次々と(しかも涼しい顔でコミカルに)やってのけるのが粋。トム・クルーズもびっくり、冒険大活劇『リオの男』(64)はかのスピルバーグも愛し、多大な影響を与え、『カトマンズの男』(65)での巨大な竹の足場を使ったアクロバティックな動きはジャッキー・チェンばり。今回、日本の劇場初公開の『エースの中のエース』(82)はオリンピックを扱ったタイムリーな内容もさることながら、カーチェイスシーンではハンドルを子供に任せ(これだけでも今ならアウト!)、自らは車の側部で曲芸乗りし、追っ手をやっつける。さらに当時60代後半、『アマゾンの男』(00)でもところどころ驚異的な身体能力を見せつつ、『リオの男』へのセルフオマージュでほっこりさせる(本作も日本初公開)。
クールでシリアスなベルモンドが観たければ、ポリティカル・サスペンス『相続人』(73)がオススメで、ネオナチの謀略と堂々渡り合う。ところでこの企画、素晴らしいのはベルモンドだけでなく、巻き込まれて一緒に体を張ることになるヒロイン、フランソワーズ・ドルレアックやウルスラ・アンドレスなどの名花や、監督フィリップ・ド・ブロカ、ジェラール・ウーリーといった忘れ難き鬼才たちにも光を当てていること。観劇後、またもや「あ〜、面白かった」という原初的な映画体験を思い出させ、豊かな時間を約束してくれます。(ライター・轟夕起夫)


ここはどこ?私は誰…?密閉されたポッドの中で繰り広げられるサバイバル…『オキシジェン』(配信中)

極低温ポッドに閉じ込められたリズはAIの助けを借りて記憶を取り戻そうとするが…(『オキシジェン』)
極低温ポッドに閉じ込められたリズはAIの助けを借りて記憶を取り戻そうとするが…(『オキシジェン』)Netflix映画『オキシジェン』独占配信中

棺のようなポッドに閉じ込められた女性を描いた本作は、シチュエーションを生かしたサスペンスを得意とするアレクサンドル・アジャ監督のSFスリラーだ。密閉されたポッドで目覚めた記憶をなくした女性。ここはどこなのか、そもそも自分は誰なのか——。物語の舞台は寝返りすらうてない狭いポッド。登場キャラは、ほぼ主人公と男性音声によるAIアシスト“ミロ”のみと、きわめてシンプルな構成だ。表情勝負&ひとり芝居という難題をこなした、主演のメラニー・ロランの豊かな表現力に舌を巻く。女性はミロを使った検索や断片的に脳裏に浮かんだ記憶をパズルのように組み合わせ、真実をたぐりよせていく。主人公と観る側の情報量がイコールなので、キャラへの没入感が高いのがミソ。何かが明かされるたび、新たな謎を提示する展開もラストまで緊張感を盛り上げた。視覚重視の構成、記憶や潜在意識に独自の視点でメスを入れ感傷的な結末へと導く切り口など、アジャらしいヒネリを効かせた作品である。(映画ライター・神武団四郎)

週末に映画を観たいけれど、どの作品を選べばいいかわからない…という人は、ぜひこのレビューを参考にお気に入りの1本を見つけてみて!なお、緊急事態宣言下の都道府県では、一部の劇場が引き続き臨時休業を案内している。各劇場の状況を確認のうえ、足を運んでほしい。

構成/サンクレイオ翼

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