【今週の☆☆☆】名匠ホン・サンスが女性心理をあぶり出す『逃げた女』、仏の名優共演による人間賛歌『ベル・エポックでもう一度』など週末観るならこの3本!
あれこれ想像力をかき立てられずにいられない、不思議映画…『逃げた女』(6月11日公開)
主人公は結婚5年目の美しい女性ガミ。夫が出張で不在中、小さなひとり旅に出た彼女が3人の女友だちを訪ねていく。ただそれだけの話なのだが、韓国の鬼才ホン・サンスの手にかかると魔法めいた映画体験に変貌する。傍観者のようにぶっきらぼうな視線のカメラが映し出すのは、ガミと女友だちの近況報告の会話。一見すると平凡で他愛ないそのやりとりが、3つのパートで“繰り返される”ことで何やら深い意味を秘めているように思えてくる。例えば、ガミは夫と心から愛し合っていて、いつも一緒に過ごしているとノロけて女友だちを驚かせるが、観客は3度も同じセリフを反復するガミの“本心”を疑い、あれこれ想像力をかき立てられずにいられない。そもそもこの映画の題名は、なぜ『逃げた女』なのだろうか、と。まるでナゾナゾのクイズを突きつけられているような不思議映画、脇役の男たちの挙動不審な言動もお見逃しなく。(ライター・高橋諭治)
恋心を再燃させる男のロマンティストぶりに胸が熱くなる…『ベル・エポックでもう一度』(6月12日公開)
映画製作の技術を応用して、広大なセットに客の行きたい時代と場所を再現する体験型エンターテインメント。今までありそうでなかった、このユニークなビジネスをモチーフに、世代の異なる2組のカップルの物語が同時進行で描かれる。フランスの名優ダニエル・オートィユ演じる主人公ヴィクトルは「運命の女性と出会った1974年5月16日のリヨンのカフェ」というピンポイントすぎるオーダーをするのだが、再現されたセットは、街並みからホテル、カフェ、ファッション、音楽、ヒロイン役やエキストラの人々の雰囲気まで、まさに70年代そのもの!VRじゃない、触れることができるリアルな世界を楽しみつつ、遠い昔の恋心を再燃させるヴィクトルのロマンティストぶりに思わず胸が熱くなる。彼の妻を演じたファニー・アルダンの大人の色気も健在。ともに70歳近い二人の“今”の魅力こそが、昔を懐かしむだけでは終わらせない物語を底支えしている。誰かと一緒に本作を観た後は、「どの時代に行って、何を体験したい?」と、妄想トークが盛り上がること間違いなし!(映画ライター・石塚圭子)
リリー・コリンズとサイモン・ペッグの完璧なケミストリー…『インヘリタンス』(6月11日公開)
政財界に影響を及ぼす銀行家が亡くなった。政治家の息子には莫大な遺産が託されるが、その姉で地方検事のローレンには1本の鍵が遺される。彼女が鍵を開けると、そこには30年もの間、父に監禁されていた男がいた…。「聡明」という言葉がぴったりなリリー・コリンズが演じるローレンは真実と正義を求める女性。愛する父の悪事を目の当たりにし、彼女のなかで合致していた真実と正義がバランスを崩し始める。彼女を一瞬にして壊す、サイモン・ペッグの存在感の大きさ。『ラン・ファットボーイ・ラン 走れメタボ』でも体重をうまくコントロールしていたように、今回も囚われていた男を演じるために体脂肪を6%にまで減らして怪演。クールな検事があっという間に世間知らずのお嬢様になるまで剥かれていく様が恐ろしく、『羊たちの沈黙』のクラリスとレクターを彷彿とさせる。リリー・コリンズとサイモン・ペッグの完璧なケミストリーはスリラーの一言で片づけるにはあまりにもったいない、素晴らしいエンターテインメント。(ライター・髙山亜紀)
週末に映画を観たいけれど、どの作品を選べばいいかわからない…という人は、ぜひこのレビューを参考にお気に入りの1本を見つけてみて!なお、緊急事態宣言下にある都道府県の劇場の一部では引き続き臨時休業を案内している。各劇場の状況を確認のうえ、足を運んでほしい。
構成/サンクレイオ翼