映画スタジオに1970年代のフランスを再現したら、いくらかかる?費用と時間を試算してみた!
ヴィンテージ家具や食器、ファッションでレトロな空気感を創出
美術費はカフェの店内と外観、両方を作るのに必要な費用だ。西村さんに費用を尋ねてみた。「店内だけなら、坪数的に、作り付けのソファーなども入れて800万円くらいでいけるかなと。それに、二階建ての部分も含めた外観や、店の前の道路なども入れて、ざっと1200万円くらい。余裕をもって、やや高めの金額で出しています」。
装飾費の内訳には、店内のテーブルや椅子、食器、アルコールの瓶などが含まれる。本作では、映像に映る部分を作るだけでなく、リアル体験をしてもらうためのサービスになるので、通常の映画の美術装飾よりも「割高になってくる可能性がある」とのこと。
劇中で登場人物が身につけている70年代フランスのキュートなレトロファッションは見どころの一つ。衣装は今回、レンタルのみを想定して試算してもらい、10万円となった。西村さんによれば、「映画の場合、衣装は役者さんの体型もあるので、予算があれば作りますし、なければ近いサイズのものを調整して使います。ヴィンテージものは、質のよい状態のものを探すと、その分料金もどんどん高くなりますね」とのことだ。
当時のカフェの雰囲気を完璧に再現するためには、ヴィクトルと運命の女性の2人だけでなく、店員やほかの客たちの存在も重要。エキストラ費は、劇中のカフェシーンに登場する人数を数え、1人あたりのギャラに15人をかけて試算している。山田さん曰く、「エキストラさんのギャラがだいたい平均的に8000円くらい。さらに、ここから芝居をする人、セリフをしゃべる人となると、また金額がちょっとずつ上がっていきますね」。
意外と大変な「雨降らし」の仕掛けにかかる費用とは?
また、今回の見積書には入れていないのだが、劇中では、ヴィクトルの記憶に強く刻まれている出来事として「突然降りだした雨」のシーンがある。映画の撮影では、雨降らしの仕掛けはどれくらいの費用がかかるのだろうか。小松さんが教えてくれた。
「雨降らしは、通常の映画のロケーションだと1日30万円くらいかかります。本作では時間も短かったので、20万円くらいかな。水を引っ張ってくるためのタンクを作ったり、本番の何日か前に、配線を組んだりする必要があるので、この映画のように、当日いきなり対応するのは無理ですね(笑)。雨降らしの場合は、1回テストをすると、下が水浸しになってしまうので、次の撮影までにスタッフ総勢で水捌けしないといけません。仕込みや片付けも含めて、雨降らしはけっこう大変なんですよ」。
記憶そのままのカフェのセットや、スタッフによる熱のこもった演出のおかげで、かつての“想い人”への恋心が再燃したヴィクトルは、体験日数の延長をリクエスト。この際、担当スタッフが告げた追加料金は「2晩延長した場合、2万ユーロ(1ユーロ132.81円で計算すると約266万円※6月13日時点)」だった。この金額については小松さんも、「スタジオ費、スタッフの人件費、装飾物のレンタル料などを1日単価で計算すると、日本でも同じくらいですね」と納得感があったようだ。
本作に出てくるカフェのセットを、たった1日体験するだけでも、かかる費用は合計2000万円近くになるという事実。具体的な数字を見ていくことで、やはり映画製作にはとにかく莫大なお金がかかる、という現実も改めて実感することができた。
料金が高額すぎるため、ビジネスとしての実現化はなかなか難しそうな本作の<タイムトラベルサービス>。自分だったら、どの時代のどの場所をオーダーしようかと空想しながら、夢のある映画の世界をじっくり堪能するのもおもしろいかもしれない。
取材・文/石塚圭子