巨匠はなぜハリウッドから干されたのか?「ウディ・アレン追放」著者・猿渡由紀が明かす、スキャンダルの裏側
あのウディ・アレンが、映画業界から仕事を干されている…。
いまから29年前の1992年、当時7歳の養女ディランに対する性的虐待を、パートナーの俳優ミア・ファローから告発されたアレン。しかし裁判では証拠不十分となり、その後もアレンは、監督として名作を次々と世に送りだしていた。アレンの作品に出ればオスカーに近づくと、俳優たちもこぞって彼との仕事を望む。しかし「#MeToo」運動のうねりとともに、アレンの実子でジャーナリストのローナン・ファローが、父の過去を糾弾。そこに同調したスタジオや俳優たちによって、アレンのキャリアは窮地に陥ってしまった。
「すべての材料を持ち込むことで、できるだけ客観的に書こうと思った」
ウディ・アレンが、35歳年下の養女スンニと結婚したニュースは、日本でも注目を集めた。血がつながっていないとはいえ、自分の娘と恋におちたアレン。このケースから想像されるように、7歳の娘に性的虐待を与えたのは事実なのか?確実な証拠は見つからず、訴追もされなかったので、やはり「濡れ衣」だったのか?映画史に残る巨匠に起こった一大スキャンダルを、いま改めて、冷静に、そして客観的にまとめた新刊「ウディ・アレン追放」が話題を集めている。
著者は、映画ジャーナリストの猿渡由紀氏。ロサンゼルス在住で、さまざまな媒体にスターや監督のインタビュー、ハリウッド事情の記事を書いているので、映画ファンはその名前を知っている人も多いだろう。猿渡氏が渡米したのが、1992年。アレンがスンニと“関係”をもったとされ、ディランへの虐待が問題になった年だ。渡米前からウディ・アレン作品を愛していたという猿渡氏は当時を振り返る。
「もともと私はアメリカの中でもニューヨークへの憧れが強く、その理由のひとつが、ウディ・アレンの映画を観たことです。ちょうど渡米した時にアレンのスキャンダルが話題になっていたのを覚えていて、いまこうして当時の事件を調べ、一冊の本にまとめたことは不思議な運命だと感じています」。
アレンの養女への虐待問題が再燃するなか、2020年、日本では新作『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』(19)が公開されたことで(アメリカでは、この作品は「封印」扱いだった)、日本での配信トークイベントに参加するなどして、この事件を改めて振り返ろうと決意した猿渡氏。タイトルに「追放」とあるように、アレンを糾弾する側面が大きいかと思いきや、本書は、アレンの目線で感情移入したら、次の瞬間、ファロー側の言い分に説得力を感じたりと、そのバランスが絶妙で、どんどん読み進めてしまう。
「タイトルを伝えただけで、『どうせウディ・アレンを責める本なんでしょう?』と決めつけられこともありました」と、執筆時の周囲の反応を打ち明ける。「それくらい、ここアメリカでは『ウディ・アレンは虐待していない』と言いづらい風潮があるんです。だから映画関係者も、そこに同調するしかない。もちろん明らかに有罪を信じている人もいるけれど、ネットで『あれはミアの復讐だ』と匿名で断言する人も多かったりする。結局、信じる側の意見しか聞かない人が多いので、だからこそ、すべての材料を持ち込むことで、できるだけ客観的に書こうと思いました」。