スピルバーグとストリーミングの雪解け?制作会社アンブリンがNetflixとパートナーシップを締結
スティーヴン・スピルバーグが会長を務める映画制作会社アンブリン・パートナーズとNetflixが、年間に複数の長編映画を制作するパートナーシップを締結した。この契約は独占的なものではなく、アンブリンの主要取引先であるユニバーサル映画との提携も継続し、さらにスピルバーグはApple TV+でもシリーズを制作している。
スピルバーグは声明のなかで、「アンブリンでは、ストーリーテリングは我々の活動のすべての中心にあります。テッド(・サランドス/Netflix共同CEO兼最高コンテンツ責任者)と私がパートナーシップについて議論を始めた時から、新しいストーリーを共に語り、新しい方法で観客に届けるすばらしい機会となることがはっきりしていました。テッドと協働するこの新しいパートナーシップは、長年のファミリーであるユニバーサル映画やそのほかのパートナーと作り続ける物語同様、私個人にとっても非常に充実したものになるでしょう。彼ら、そしてNetflixチーム全員と一緒に制作を始めるのが待ち遠しいです」と述べている。
一方、Netflixのテッド・サランドス共同CEOは、「スティーヴンはクリエイティブなビジョンを持つリーダーであり、私の少年時代は世界中の多くの人々と同様に、彼が作る印象深いキャラクターと、永続的で刺激的で覚醒させるようなストーリーによって形成されました。アンブリンのチームと一緒に仕事をするのが待ちきれず、スティーブンの映画史の新章に参加できることを光栄に思います」とコメント。
アンブリン・パートナーズは、第91回アカデミー賞作品賞を受賞した『グリーンブック』(18)や、第92回アカデミー賞で撮影賞など3部門を受賞した『1917 命をかけた伝令』(19)など、高い評価を得た映画を制作。今年度のアカデミー賞5部門にノミネートされた『シカゴ7裁判』(20)はパラマウント映画で制作されていたが、パンデミックの煽りを受けて北米中の劇場が閉鎖したことにより、Netflixに売却された。アンブリンは現在、ブラッドリー・クーパーが監督、そして世界的に著名な指揮者で『ウエスト・サイド物語』(61)の作曲家として知られるレナード・バーンスタインを演じる『Maestro』をNetflixと共同で制作中。
このパートナーシップが映画業界に衝撃を与えたのは、スピルバーグの過去の言動があるからだ。2019年の第91回アカデミー賞においてNetflix制作の映画『ROMA ローマ』(18)が監督賞、撮影賞、外国語映画賞の3冠を受賞した際に、スピルバーグが理事を務め、アカデミー賞を主催している映画芸術科学アカデミーに、作品賞候補作は少なくとも1か月間劇場での独占公開を行うという新しいルールの裁定を求めていた。これは、ストリーミングで配信される映画はテレビ映画のカテゴリーで審査されるべきで、そのためにエミー賞があるという考え方であり、劇場配給モデルの崩壊を促すストリーミング各社を牽制する動きだった。しかし、翌年の2020年に新型コロナウイルスのパンデミックが世界中を襲い、皮肉なことに配信作品も作品賞候補作に含まれるルール変更がなされている。
さらに、Netflixはアンブリンが制作した『シカゴ7裁判』をパラマウント映画から引き受け、受賞は逃したがアカデミー賞5部門にノミネートさせた功績は大きい。スピルバーグは映画監督であると同時にドリームワークスの創業者でもあり、ビジネスマンとしての顔も持つ。今回のNetflixとの提携契約は、今後の映画業界の進展を見据えたうえでの決断と言えるだろう。
文/平井伊都子