ヨルシカ・suisが明かす、顔出しをしない理由。作品に息を吹きこんで感じた“生きている楽しさ”
「顔を知られるのが怖い。それはシー・モンスターと同じ気持ちです」
SNSから生まれた次世代アーティストであるヨルシカは、YOASOBI、ずっと真夜中でいいのに。らと共に、そのネーミングから「夜好性」というくくりで注目されてきた。そのなかでいえば、YOASOBIはテレビでのプロモーションなどを積極的に行っているが、ヨルシカについては「作者が作品より前に出ないようにしたい」というn-bunaのポリシーから、一切素顔やプロフィールを明かしていない。
suis自身は「表に出ないほうがいいというのは、相方であるn-bunaくんの方針ですが、私も同じ気持ちです。私は世間様に顔がバレるのが恐ろしいというか、シー・モンスターと同じ気持ちです。ルカはすごく勇敢でしたが、私はやっぱり人間が怖い。n-bunaくんは『純粋に音楽を聴いてほしい』という崇高な気持ちがあってそうしていますが、私の場合は感性も一般人だし、顔が知れたらなにをされるかわからないという恐怖があるので、絶対に顔を出したくないんです」と心情を吐露する。
顔出しをしないヨルシカにとって、世界観を伝える重要なコミュニケーションツールであるMVなどの映像については「そこは私が全然携わっていない部分で、n-bunaくんと映像作家さんが創り上げてくれた世界観です。ヨルシカの世界はn-bunaくんが作っているもので、私は歌で色を足して補完する役割だから、完成した映像を見て、いつも『すごい!』と思ってしまいます」と、全体をプロデュースするn-bunaをリスペクトする。
「自分の声でなにかを表現していけたら、生きていて楽しいだろうなと思います」
2020年のコロナ禍で、ヨルシカは音楽業界において大きな飛躍を遂げたが、suis自身は日常をどう過ごしていたのだろうか。「私は休むのが大好きで、ほかの仕事もしていないから、レコーディングをする時以外は家から出ないというのがデフォルト。ですから特にコロナ禍で生活スタイルが変わったということはなかったです。家では音楽もほとんど聴かないし、映画もそんなに観なくて、なにも仕入れることができない体質なんです。ただご飯を食べたり、寝たりしていますね。なにもしてなくてすみません…」と頭を下げるsuis。
そんなインドア派のsuisだが、コロナ禍が続くなかで「気分が沈まないようにお散歩をして、太陽の光を浴びたり、外の空気を吸ったりしています。普段は人とすれ違うのがあまり好きじゃないのですが、コロナ禍で人があまり外に出なくなり、お散歩がしやすくなったので、いつも以上に外を歩くようになりました」と言う。
suisの発言一つ一つにはまったく自己顕示欲が感じられず、その人となりに尖ったようなわかりやすい個性は読み取れないのだが、だからこそn-bunaが作る曲を通して、若者が日々抱えるリアルな想いをにごりなく純粋に歌い上げることができるのかもしれない。
そんなsuisに今後の展望やチャレンジしてみたいことについて聞くと「いまは全然思いつかないです」という答えが返ってきたのも彼女らしい。声の表現力が豊かな彼女なので「声優などはいかがですか?」と振ってみると、「やったことがないことをやってみたらきっと楽しいとは思うので、すごく興味はあります。まったく未経験だから、できるかどうかは置いておいて、とてもおもしろそうだなとは思います」と返してくれた。そして最後には、「これからも作品に息を吹きこむというか、自分の声を使ってなにかを表現していけたら、生きていて楽しいだろうなと思っています」と笑顔で締めくくってくれた。
今回直接お会いしたsuisの印象は、とても正直で穏やかで、しかもかわいらしいと、好感しかなかった。また、いい意味でフラットなスタンスだからこそ、まぶしいスポットライトは、彼女にとって強すぎるのかもしれないと感じ、覆面を貫きたいという想いにも納得できた。とはいえ、美しく伸びやかな声には無限大の可能性を感じるので、ルカのように冒険をして、活躍の場をもっともっと広げていってほしいと切に願う。
取材・文/山崎伸子