ポン・ジュノ監督が驚きのエピソードを明かす!「『殺人の追憶』の犯人が映画を観た感想は『まあまあの映画』」
「『殺人の追憶』を観た犯人の感想は『まあまあの映画』」
2019年に、ポン・ジュノ監督の代表作の1本『殺人の追憶』(03)のモチーフとなった華城連続殺人事件の真犯人が特定された。この衝撃のニュースについての思いを聞かれたポン・ジュノ監督はこう話している。「罪のない人々を殺めた犯人は一体どんな顔をしているのかとずっと考えていました。事件は86年〜91年に起き、2003年に映画が公開されています。それから16年後、『パラサイト』でパルムドールを受賞した直後にこのニュースを聞いてとても奇妙な気分を味わいました。脚本のリサーチで、担当刑事、報道関係者、村の人などたくさんの人に会いました。唯一会えなかったのが犯人でした。もしも犯人に会う機会があれば聞きたい質問もずっと持っていたんです。逮捕のニュースを聞いてから1、2日はとても奇妙な気分でしたね。犯人は他の罪状ですでに収監されているので、面会することもできます。ですが、会うべきではないと考えています。獄中にいる犯人が映画を観ているはずはないと思っていましたが、刑事が『見ている』と確認してくれました。『まあまあの映画』という感想だったそうです。『殺人の追憶』は刑事がスクリーンからまっすぐこちらを凝視しているところで終わります。もしも犯人が映画館でこの映画を観ることがあったら、と想定して演出したシーンでした」。
「韓国映画を知りたいなら、インディペンデント映画を観て欲しい」
そのほか、会場から寄せられた「自身の映画のなかで気に入っているシーンは?」という質問に、「『母なる証明」で母(キム・ヘジャ)が踊っているのをバスから見るシーンと、『パラサイト』で家政婦(イ・ジョンウン)が全身を使い宙に浮いているように扉を押すシーン」と返答し、「現在、韓国映画は黄金時代にあると思うか?」という質問には、「パク・チャヌク監督、イ・チャンドン監督、今年のカンヌ国際映画祭でも上映されるホン・サンス監督らはそれぞれの世界観を持った素晴らしい監督たちです。しかし、韓国映画を知りたいと思ったら、若い世代の監督によるインディペンデント映画を観て欲しいです。『夏時間』(19)のヨン・ダンビ監督はまだ海外であまり知られていないかもしれないですが、ロッテルダム映画祭で受賞しとても注目しています」と答えている。
ポン監督は、取材やイベントの場でその国の映画や映画人に敬意を示す発言をすることが多い。カンヌ国際映画祭が行われているフランスの映画界に対してもそのような心遣いが見られ、フランソワ・トリュフォーについて、フランスのグラフィック・ノベル(バンド・デシネ)についても言及していた。「最近の監督で注目しているのは?」という質問には、アルフレッド・ヒッチコック、キム・ギヨン、サム・ペキンパー、ジョン・カーペンターの名前とともにフランスのアラン・ギロディ監督の名前を挙げている。「最近出てきた若い監督ではなく直接面識もないですが、ギロディ監督の『湖の見知らぬ男』(13)と『垂直のまま』(16)は、とても数奇で力強い作品で大きな感銘を受けました」と述べ、世界中の映画にアンテナを張るシネフィルの顔を覗かせていた。
第74回カンヌ国際映画祭の審査員にはポン監督作に数多く出演しているソン・ガンホが名を連ね、ポン監督は9月に行われる第78回ヴェネチア国際映画祭の審査委員長を務めることが発表されている。
文/平井伊都子