2021年はミュージカルの年!宇野維正が解説、“スター映画ではない”傑作『イン・ザ・ハイツ』の魅力
映画『イン・ザ・ハイツ』(7月30日公開)の特別トークショーが7月21日に東京都内で開催され、映画・音楽ジャーナリストの宇野維正が出席。「もう今年一番はこれかなというくらい感動した」という宇野が、本作の作品背景や魅力を語った。
ミュージカル「ハミルトン」で社会現象を巻き起こしたリン=マニュエル・ミランダの傑作ミュージカルを、『クレイジー・リッチ!』のジョン・M・チュウ監督が映画化した本作。ニューヨークの片隅にある、祖国を遠く離れた人々が暮らす街ワシントン・ハイツを舞台に、夢に踏みだそうとする4人の若者たちの運命が大きく動いていく姿を描く。
「この映画のすごく偉大なところは、スター映画ではないところ」と語る宇野は、「舞台の初演は2005年で、いまから16年前になる。リン=マニュエル・ミランダはまだ当時25歳でこれを作っている。オリジナルの『イン・ザ・ハイツ』では、彼が主人公のウスナビを演じています」と解説。映画版でウスナビを演じたアンソニー・ラモスは、「リーアム・ニーソンの『ファイナル・プラン』という映画で、悪い警官の一人を演じている」そうで、「つまりリーアム・ニーソンの映画で、5番手くらいの悪い役を演じるような役者。ハリウッド映画では、ヒスパニックの人たちは基本的にはそういう役しかもらっていないんです」とハリウッドの現状を明かす。
本作は、「ハリウッド映画にもかかわらず、普段は犯罪者や悪い警官役を演じているような役者を主人公にしている」というが、「一度、2012年くらいに本作に映画化の話が立ち上がった時は、スター映画にしようとして、シャキーラやジェニファー・ロペスが出演候補に上がった」こともあるのだとか。「ジョン・M・チュウ監督が、これまでハリウッド大作のなかで真ん中にいなかった人たちに光を当てた。7、8年前に映画化されていたら、スター映画として作られていたと思う。年月が経って、2021年にこうした形で作られたことは、意義のあることだと思います」と力を込めていた。
夏の夜に起きた大停電をきっかけに物語が動きだすが、これは2003年に実際に北アメリカで起きた大停電がモチーフになっており、「パニックになったけれど、時間が経つとそこでコミュニティに対する信頼や、助け合いが起きた」といまでもニューヨークに住む人たちにとっては語種になっているという。「願望やファンタジーも含めて、地元愛を歌った作品。本当のワシントン・ハイツで撮影しているのも大きい」と映画には、現地の人々の熱気や愛が映しだされていると話す。
最後に宇野は「今年はこのままミュージカルの年になると思います」と予想。「(スティーヴン・)スピルバーグ監督が『ウエスト・サイド・ストーリー』をリメイクした映画が12月に公開されます。さらにリン=マニュエル・ミランダが監督デビューをします。『tick,tick...BOOM!(チックチックブーン)』というニューヨークを舞台にした名作ミュージカルを映画化して、Netflixで公開される。ニューヨークを舞台にしたミュージカル映画が続々と出てくる。それが、パンデミックが明けたアメリカのエンタテインメントの台風の目になるというのは間違いない。その口火を切るのが『イン・ザ・ハイツ』」と語っていた。
取材・文/成田 おり枝