『サイダーのように言葉が湧き上がる』イシグロキョウヘイ監督が市川染五郎&杉咲花に託した想い
「アニメと歌舞伎の表現には、共通したものがある」(イシグロ監督)
――染五郎さんと杉咲さんは、一緒にアフレコに挑むことができたそうですね。
染五郎「杉咲さんは、声優の経験や映像でのお芝居の経験もたくさんあって、本当にすごい方というイメージです。アフレコの前に、声の入っていないアニメーション映像をいただいて練習していましたが、アフレコに行ってみると、僕が『スマイルに声が入ったらこういう感じかな』と思っていた通りのスマイルで、ものすごく感動しました。お芝居を見ていても、スマイルそのものになっていました」
杉咲「スマイルがチェリーに『俳句を作ってみて』とお願いして、チェリーが『夕暮れの……』と言いながら顔が真っ赤になってしまうシーンがあるんですが、その時の染五郎くんのお芝居がとても印象的でした。一緒のアフレコで、チェリーから少しずつ言葉が生まれていくのを感じながら『なんてすてきなんだろう』という感動があって。とてもかわいらしいシーンになっていると思います。また、監督から求められるコミカルな声のお芝居に、私は苦戦してしまうこともあったのですが、染五郎くんはそのたびに違った表現に挑まれていてすごいなと思いました。私自身も学ばせていただくことが多かったです」
イシグロ監督「お二人には『実写と違って、アニメでお芝居をする時には、“誇張する”ということを意識してやっていかないと、キャラクターとお芝居がくっついていかない』というお話をしました。スマイルに『俳句を作ってみて』と言われたシーンでは、チェリーは声がひっくり返ったような音を出しますが、ただ『え!』というだけではチェリーの驚きを伝えるには、情報量が足りないわけです。そういった意味では、アニメと歌舞伎の表現には、共通したものがあるようにも感じています。歌舞伎は“観劇するもの”ですから、たとえば“さめざめと泣く”という場面があったとしたら、遠くに座っているお客さんにもわかるように、“さめざめと泣く”という情報を伝える必要があるわけですよね。“遠くに届けるための技術”を持っている染五郎くんは、絶対に声の芝居もうまいだろうなと思っていました」
染五郎「声のお芝居の大切さについては、三谷さんにもたくさん教えていただきました。『月光露針路日本 風雲児たち』は、船がロシアに難破してしまい、登場人物たちが『いつか日本に帰りたい』と奮闘する物語なんですが、そのなかで僕は『でも、帰りたいんです』というセリフがありました。三谷さんは、『“帰りたい”という言葉に、気持ちを持っていきがちだけれど、“でも”という接続詞が大切だ。“帰りたい”よりも、“でも”を、強く、高く発することで、リアルに聞こえる』とお話しされていて。接続詞の声の出し方まで、気を配る大切さを知りました。本作も初めての経験、新しい挑戦ばかりで不安もありましたが、それを乗り越えてやっと皆さんにお届けできると思うと、本当にうれしいです」
――いよいよお披露目になる本作。杉咲さんにとっては、どのような作品になりましたか?
杉咲「私自身もスマイルのようにコンプレックスを感じる部分は色々とあるのですが、本作では『自分にとってコンプレックスだと思うことも、ほかの人からするとそれがすてきに見えることだってあるんだ』ということが感じられて、この作品からすごく勇気をもらえたと思っています」
イシグロ監督「お2人ともすばらしいお芝居でした。手紙を書いて、本当によかった!」
取材・文/成田 おり枝
※本インタビューは、2020年3月に収録されたものです