日本各地で長期ロケ!『G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ』撮影現場を直撃
いま思えば、非常にいいタイミングだった。大ヒットアクション映画シリーズ最新作『G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ』(10月22日公開)の日本ロケが敢行されたのは、パンデミック以前の2020年2月。しかも、内閣府が初めて実施した外国映像作品ロケ誘致の実証調査対象作ということで、姫路、大阪、茨城で1か月超の長期ロケが開催されたのだ。今回は茨城県の「ワープステーション江戸」で行われたセットビジットで行ったインタビューをお届けする。
ハイテクガジェットや特殊マシンを駆使した戦闘部隊「G.I.ジョー」と、世界支配を目論む悪の組織「コブラ」との戦いを描く同シリーズ。『G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ』の主人公は、漆黒のマスクで刀を武器とする人気キャラクター、スネークアイズで、演じるのは『ラスト・クリスマス』(19)のヘンリー・ゴールディングだ。今回はスネークアイズの知られざる誕生秘密が描かれる。
時代劇のオープンセットが建ち並ぶ「ワープステーション江戸」は、大河ドラマをはじめ、「銀魂」シリーズや「るろうに剣心」シリーズなどでもロケが行われた場所で、一歩足を踏み入れただけで、タイムスリップしたような気分が味わえる。
この日は深夜にクライマックスの一大バトルシーンが撮影される予定で、撮影の合間を縫ってやってくる、ゴールディングら主要キャストやスタッフ陣から、日本ロケの感想を聞いていった。
プロデューサーのロレンツォ・ディ・ボナヴェンチュラは「今回、我々が目指した一番の大きな目標は、日本の建築や文化、キャラクター、アクションと、アメリカなど西洋の文化を完璧に融合することです。主人公のスネークアイズが、日本で“嵐影”という忍びの一門に入るお話なので、双方の文化を上手くミックスさせられればいいなと思いました」と本作のコンセプトを述べた。
プロデューサーによると、“嵐影”の拠点はスケール感を出すために、姫路城や岸和田城など大阪と兵庫で撮影してきたものを外観として使用し、ワープステーション江戸では、その内部に当たるパートを撮影すると言う。
プロダクションデザイナーのアレック・ハモンドは、本作の建築や装飾、武器、衣装を手掛けるにあたり、1600年代から現代までの日本文化をリサーチし尽くしたそうで「本編の約半分を、実際に日本で撮影できたというのは、非常に大きなアドバンテージになりました。伝統的な日本の建築、装飾、衣装などに、ハイテクの武器庫や最新モデルのバイクといったものをぶつけ合わせることで、対比を際立たせました」と日本ロケの意義について語った。
本日、話を聞けたキャストは、ゴールディングと、最強の抜け忍、鷹村役の平岳大、嵐影一門の忍者、暁子役の安部春香の3名だ。本作では「るろうに剣心」シリーズの谷垣健治が、スタントコーディネーター兼アクション監督を務めているが、ゴールディングは「ケンジは最高です」と谷垣をべた褒めする。
ちょうど、我々取材班は、武家屋敷の屋根で、忍者たちによるワイヤーアクションシーンを見学したが、忍者たちが素早い身のこなしで屋根を走り、華麗に剣と剣を交えていくという殺陣は、まさに谷垣仕込みのものだった。
「『るろうに剣心』はお気に入りの映画の1つだったので、谷垣さんが同シリーズに関わっていることを製作陣から聞かされた時、『えーっ!?』と激しく反応してしまいました。特に日本刀を使った殺陣は唯一無二です。ただ、殺陣がすばらしいとはいえ、トレーニングは正直、かなり厳しかったです。カナダのバンクーバーで1か月半ほど猛特訓を受けましたが、終わるころには身体のあちこちが痛くて(苦笑)。でも彼のおかげで、ハリウッド映画では見ることができない、古典的かつスタイリッシュという、とてもユニークな武術や格闘スタイルになったと思います」。
また、ゴールディングは共演した日本人キャストについて「実に多くを学びましたし、新たな発見に満ちた刺激的な体験をさせてもらいました。日本には、ハリウッド映画に進出していないけど、才能豊かなすばらしい俳優がまだまだたくさんいるんだと、改めて実感させられました」と称え「日本人スタッフの仕事ぶりにも感心しきりです。日本人は勤勉でプロ意識が高いというイメージがあったので、驚きはしませんでしたが、実際に目の当たりにして、尊敬の念がより深まりました。半年近く彼らと共に過ごすなかで、本当にたくさんのことを学びました」とリスペクトする。
2019年にハワイに移住した平は、2020年に配信されたNetflixとBBCとが共同制作したドラマ『Giri/Haji』でも海外から注目されたばかり。本作では、鷹村役を演じると共に、日本人俳優として、現場をサポートする役割も担っていたようだが、日本の現場との違いに驚くことも多かったとか。
「例えば、袴の着方などはアメリカ人スタッフでは分からないので、YouTubeなどで調べてくれますが、やはり僕が自分で着るほうが上手く着れるわけです。でも、スタントダブルの人には、衣装担当のスタッフが着せるので、毎朝僕のトレーラーにチェックを受けに来てくれていました。でも、ある日違う人が来たので、『あの人は?』と聞いたら、『バケーションに行った』と言うんです。これがもしも日本だったら、『やる気あんのか!』と、精神論になるわけです(笑)。でも、ふと落ち着いて考えてみると、ちゃんと代わりの人がいるからこそ、仕事として機能しているんだなと感じました」。
ほかにも、組織の構造について「日本だと、ADは出世魚みたいな感じで、サードからセカンドになり、最終的にトロ(ファースト)に出世するような流れですが、ハリウッドの現場ではポジション分けがされているものの、野球のポジションみたいにすべて役割が違うんです。もちろん、日本映画とは予算も違いますがそれだけではなく、ハリウッドにはビッグバジェットを受け入れられるだけの仕事の仕方や構造的な器があるように感じました。そういう意味では、経験として、(邦画と洋画では)似て非なるものを作っている感じは正直しています」と発見も多かったようだ。
平とは『Giri/Haji』でも共演した安部は、普段はロンドンを拠点に活動しているが、海外生活が長いだけに「自分は日本人という意識が人一倍強いと思います」と母国への想いを明かした。
「やはり海外に出てしまうと、日本が恋しくなるので、日本人としてのアイデンティティも大事にしながら、お仕事をさせていただいています。今回は日本での撮影で、姫路や大阪の歴史ある場所で撮影ができて感動しましたし、光栄に思いました」と撮影を楽しんだ様子。
この日の深夜に行われたダイナミックなバトルシーンを見られなかったのは残念だが、キャストやスタッフ陣からは、本作に懸けた熱い情熱が伝わってきた。日本政府もお墨付きで、壮大なロケが敢行された『G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ』は、果たしてどんなふうに仕上がったのか?チーム谷垣のもと、国際色あふれる人気キャストが織りなすド派手な忍者アクションを、早く大きなスクリーンで観たい。
取材・文/山崎伸子