松坂桃李と鈴木亮平が「唯一無二」と語る、『孤狼の血 LEVEL2』白石和彌監督の現場
「日岡は単なる“犬のおまわりさん”のようでしたが、松坂桃李は“孤狼”でした」(鈴木)
――鈴木さんは「いい人を演じるときは悪い部分を、悪い人を演じるときはいい部分を探す」とおっしゃっていますが、今回はそれを特に意識されたってことですか?
鈴木「人の命を奪うことは絶対に良くないことなんだけど、誰の目線から見るかによって善悪の見え方というのは大きく変わってくる。上林が背負ってきた負の部分と向き合うのは苦しい作業ではあったんですけど、意外と自分に引き寄せて演じられたというか、あまり無理した感じがしないんですよね。って言うと『コイツとんでもないヤツだな』と引かれてしまいそうですけど、東京で気を張って生きてきた僕の鎧を全部剥がしたら、意外とこんな人間ってこともあり得ますよ(笑)。でも、筧(美和子)さんとのシーンを撮ったときに、ある“ブツ”が出てきて『これを中に入れて、もっと動かしてください』って言われて。鼻から下は筧さんなので、本当にやってるような気分になるんです。大抵のことは平気ですが、さすがに引きずっちゃって、ホテルへの帰り道を2度も間違えました。そんな状態になったのは初めてですね」
――松坂さんは傍若無人に振る舞う「上林組」を目の当たりにして、どういう心境だったんですか?
松坂「先に上林パートの撮影が始まっていたのですが、僕が現場入りした時にまず監督に言われたのが、『早く上林を捕まえてくれ!』だったんですよ。『大変なんだよ!』って(笑)。僕自身としては、キャストの皆さんはもちろんのこと、各部署のスタッフの皆さんの熱量も含めてピークのところからいきなり『ドン!』とスタートした感じがして、『皆で力を合わせて前作を上回るものを作るんだ』ってことを初日に思い知らされたというか。その瞬間に余計な身体のこわばりが一気に抜けた感じがしましたね。『孤狼の血』って、雨降らしの場面がすごく印象的だと思うんですが、その分尋常じゃない量の雨を降らすので、目も開けらないわ、しゃべれないわで、演じるほうは本当に大変なんです。クライマックスの上林との格闘シーンを撮り終えた時も、白石さんが『このシーンを一番撮りたかったんだよ!』って大興奮してたんですけど、僕と亮平さんはもうヘロヘロで(笑)。でもそんな状況でも監督が誰よりも楽しんでいる顔を見ると『頑張って良かった』『じゃあ今度はもうちょっとこういうこともやってみよう』って、つい思わされてしまうんですよね」
――お2人が思う白石監督の現場の魅力はどこでしょう?
鈴木「スタッフ、キャストをすごく信頼してくれて、本人が出したアイデアも柔軟に取り入れながら、その役者が一番輝くように芝居を引き出してくれる、唯一無二の監督だと思いますね。大体自分の芝居を見ると凹むことが多いんですけど、白石さんの作品の場合は『あぁ、こんなふうに仕上げてくれた!』という喜びがあるんです」
松坂「白石さんとご一緒したのは『孤狼の血』の2作品と『彼女がその名を知らない鳥たち』だけですが、どちらも‟汗”の匂いがするというか。それこそスクリーンからなにかが匂い立ってくるような印象があるんです。決してきれいなわけじゃないのに、なぜか美しく思えてしまうような。撮影中、亮平さんたちとレンタカーで呉の電気風呂に行ったり、撮影現場に特設された“居酒屋 孤狼の血”で、スタッフさんたちとその日の撮影を振り返ったりしつつ、ホテルに帰って『明日はこのシーンかぁ』と思いながらベッドで眠ったり。本当に幸せな現場でした。呉って、電気風呂がすごく多いんですが、ちょっと設定が壊れてるんです」
鈴木「“レベル2”どころか、レベルMAXだったもんね(笑)」
松坂「そう。入った途端に『アアアア!』って、感電するくらいパワーがすごくて(笑)」
――改めて本作で久しぶりに共演したお互いの印象を教えてください。
鈴木「日岡は単なる“犬のおまわりさん”のようでしたけど(笑)、松坂桃李は“孤狼”でしたね。撮影前、桃李くんに『おい日岡!』って呼びかけて、『待っちょれよ。やったるからのぅ!』って軽く挑発したら、『おぅ、来いよ! 逮捕したるけんのぅ!』 って即座に返ってきて(笑)。白石監督も桃李くんも普段は羊の皮を被ってるんですけど、監督は一皮向いたら反骨精神旺盛だし、桃李も優しくて爽やかなナイスガイの仮面の下に、まがまがしい一面を隠しながら生きてるんだなって。それが今回爆発していました」
松坂「亮平さんの役への探求ぶりは、世界で活躍する役者さんの取り組み方に近い気がするんですよ。これは僕の勝手な想像ですけど、もしハリウッド並みの時間と予算があったら、さらにすごいことをやるんだろうなって思いますね」
取材・文/渡邊玲子