宮崎吾朗監督、父からの賛辞に照れ「本当かな?」『劇場版 アーヤと魔女』に込めたチャレンジとジブリらしさ
スタジオジブリ初のフル3DCGアニメーション作品となる『劇場版 アーヤと魔女』(8月27日公開)が、スクリーンに登場。これまでのジブリヒロインとは趣を異にする、したたかで元気いっぱいの10歳の少女、アーヤが魔女を相手に大奮闘を繰り広げる。宮崎吾朗監督が新たなチャレンジをしながら完成させた作品は、監督の父であり、本作の企画も務めた宮崎駿が「本当に手放しで褒めたい」と大絶賛。宮崎吾朗監督は「本当かな?」と賛辞に照れ笑いを浮かべながら、「やっと一人前になったと見てくれたのかもしれない」と喜びを口にする。本作に込めたジブリらしさ。そしてキャラクターデザインを担った近藤勝也とフル3DCGの相性の良さなど、吾朗監督が『劇場版 アーヤと魔女』への想いを語った。
「アーヤは、“清く正しく美しく”という女の子ではない。でもそういったヒロインが必要」
『ハウルの動く城』(04)のダイアナ・ウィン・ジョーンズによる同名の児童書を映画化した本作。劇場作品では『コクリコ坂から』(11)以来約10年ぶり、最新作ではNHKのテレビシリーズ「山賊の娘ローニャ」以来6年ぶりに、宮崎吾朗が監督を務めた。「子どもの家」でなに不自由なく育ったアーヤ(平澤宏々路)が、魔女のベラ・ヤーガ(寺島しのぶ)と、怪しげな男のマンドレーク(豊川悦司)に引き取られ、生まれて初めて思い通りにならない壁にぶつかる姿を描く。
したたかで、周囲を操ろうとするアーヤは、ジブリに新しい風を吹かせるようなヒロインだ。眉間にシワを寄せたり、寄り目になったりと、クルクルと変わる表情も愛らしいが、吾朗監督は「原作を宮崎駿にすすめられて読んでみたんですが、アーヤって決していい子ではない。いわゆるジブリの映画に出てきそうな、“清く正しく美しく”という子ではないですよね」と楽しそうににっこり。「でもアーヤは自分のやりたいことがはっきりとしていて、周囲を操ってでも、それを実現しようとする。そういった力強さは、いまの世の中に必要なことなのかなと思ったんです」と語る。
「僕にも小学生の子どもがいるんですが、昔と比べて子どもの数がどんどん減っていますから、彼らは少ない数で大人を相手にしなければいけないわけですよね。『この子たちには社会がどう見えているんだろう』と思った時に、彼らの周りは大人だらけ。そんななかで、『ああせい、こうせい』と大人からうるさく言われるわけです。これは大変だろうなと思った。我慢をしていい子でいて、すべて受け入れて耐え忍ぶのではなく、うるさい人たちを操りでもしないと、自分たちのやりたいことはできないのではないかと思ったんです」と少子化の世の中を生きる子どもたちに寄り添い、「アーヤはままならないことが多い状況でも、『私は大人の思うようにはならない』とやり返していく。そんなアーヤが、いまを生きる子どもたちにとって、一つの見本になってくれたらいいなと思いました」と願いを託したという。
制作スタッフには、「アーヤは、(プロデューサーの)鈴木敏夫みたいな子」と話したこともあるのだとか。「人を手玉にとって、操る…となると鈴木敏夫みたいだなと」と笑いながら、「でも鈴木さんの操り方って、強制ではないんですよね。みんなが、“鈴木さんのために”とひと肌脱ぎたくなるような人。才能ですよね(笑)。結果、巻き込まれたみんなも楽しくやっちゃうんです」とプロデューサーの手腕にも舌を巻く。
「近藤さんのデザインは、3DCGとすごくなじみがいい」
本作は、ジブリ初となるフル3DCG作品だ。手描きのセル画スタイルに見えるCGアニメーションであるセルルックで制作した「山賊の娘ローニャ」を経て、次は3DCGに挑戦してみたいと思っていたという吾朗監督。『劇場版 アーヤと魔女』は3DCGに向いているという予感もあり、制作に動きだした。ジブリでフル3DCGをやる意義について、どのように感じているのだろうか。
吾朗監督は「実は『ジブリ作品は手描きでやるもの』とは、誰も言っていないんですよ」と口火を切り、「宮崎駿だって、鈴木プロデューサーだって『CGも使えばいい』と言っていたし、高畑勲さんもわりと早い時期から『CGをどう使うか』と考えていた方です。ジブリを作ってきた人たちは、意外とCGを使うことに抵抗がない。逆にジブリを作ってきた人たちではない、僕らのような世代の人間が『ジブリって手描きだよね』とこだわっていた部分があると思うんです」と胸の内を吐露。「『山賊の娘ローニャ』のように、今回もセルルックでやるか?と考えたこともあったんですが、いまでも手描きアニメーションを作っているジブリで、わざわざセルルックのCGを作るほうが不自然かなと思いました。新しい挑戦という意味でも、せっかくジブリでCGをやるならば、フル3DCGでやってみようと思いました」と意気込みを語る。
「山賊の娘ローニャ」では、CGアニメーションの可能性を大いに感じたと続ける。「手描きならば避けてしまいがちな複合的な芝居も、CGのアニメーターたちはどんどん意欲的に取り組んでいきます。例えば“キャベツの千切りをする”という一見、地味な芝居も、手描きでやるのはものすごく大変。ベテランのアニメーターでないと、なかなかうまくできない芝居だったりします。また、“話をしながら振り向く”という芝居も、手描きでやるのは実はとても難しい。お芝居の自由度という意味でも、3DCGならばもっと可能性を追求していけるのではないかと思いました。またトライアンドエラーがしやすいという利点もあり、『こんなこともやってみよう』という発想の幅も広がるように思います」。
本作でキャラクターデザインを担ったのは、『天空の城ラピュタ』(86)から原画でジブリ作品に参加し、『魔女の宅急便』(89)でキャラクターデザインと作画監督、『崖の上のポニョ』(08)で作画監督と主題歌作詞も務めた近藤勝也。吾朗監督は「近藤さんのデザインは、3DCGとすごくなじみがいい」と明かす。
「近藤さんは、正面から見た絵、横から見た絵、後ろから見た絵、場合によっては斜めから見た絵…とすべてデッサンを狂わせることなく、どの角度からも正確にキャラクターを描くことができる。近藤さんのデッサンを辿っていけばきちんとモデリングできるので、彼のデザインは3DCGとすごくなじみがいいんです。逆に言えば、近藤さんの描くものはプロポーションが精緻だからこそ、手描きのアニメーターにとってはとても手強いもので。相当なデッサン力がないと、彼のデザイン通りに描くことは難しい。3DCGは、彼のデッサン力が存分に生きる場所なのではないかとも思っています。近藤さんは『山賊の娘ローニャ』も一緒にやってくれたので、その経験も踏まえていろいろな絵を描いてくれました」。