「鬼滅の刃」第19話「ヒノカミ」が“神回”と呼ばれる理由とは?ぶつかり合う、炭治郎と累の家族観

コラム

「鬼滅の刃」第19話「ヒノカミ」が“神回”と呼ばれる理由とは?ぶつかり合う、炭治郎と累の家族観

昨年公開された劇場版が国内の歴代興収記録を塗り替えるなど、かつてないほど幅広い層から支持を集めている「鬼滅の刃」。9月25日(土)の『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』テレビ初放送に向け、5夜にわたって「竈門炭治郎 立志編 特別編集版」が放送されたことでふたたび話題を集めた、“神回”と呼ばれるテレビアニメ第19話「ヒノカミ」にスポットを当て、本作のなにが視聴者の心をつかむのかを再確認していきたい。

「第一夜 兄妹の絆編」のキービジュアル
「第一夜 兄妹の絆編」のキービジュアル[c]吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

炭治郎と禰豆子、善逸、伊之助は緊急任務により、禍々しい気配が立ち込める那田蜘蛛山へと向かう。炭治郎は人間を糸で操る鬼と、より強大な姿に変態する鬼との戦いを経て、那田蜘蛛山が十二鬼月の一人、下弦の伍である累と、その“家族”の根城だと知る。この話の軸となるのが、炭治郎と累の“家族観”のぶつかり合いである。炭治郎と禰豆子vs累の苛烈な戦闘を通して、観る者にも“本当の家族の絆”とはなにかをまっすぐに問いかける、「竈門炭治郎 立志編」のなかでも重要なエピソードだ。

炭治郎の前に立ちはだかるのは、“家族の絆”に焦がれる十二鬼月の累

穏やかな両親のもと、竈門家の6人兄妹の長男として生まれた炭治郎は、家族思いでやさしい心を持った少年。剣士になった理由も、鬼にされてしまった妹の禰豆子を人間に戻すためで、家族への愛こそが、本作全編にわたって炭治郎を突き動かす原動力である。そして、長女として母親とともに弟妹たちの面倒を見ていた禰豆子も、自身のことよりも家族を優先する、炭治郎と同じく家族思いの少女。鬼と化したあともその想いは変わらず、家族である炭治郎の危機を感じた時は身を挺してかばおうとする。

一方、累は“家族の絆”というものに自分本位な強い憧れを抱いている鬼。実は、かつて病弱な子どもだった累は鬼舞辻無惨によって鬼になり、そんな息子を思って一家心中を図った両親を自らの手で殺めてしまったという凄惨な過去がある。その後、家族に焦がれるあまり、ほかの鬼に自分の力を分け与え、父、母、兄、姉がいる疑似家族を形成。しかし、その実態は累の恐ろしい力に支配された偽りの家族にすぎなかった。

恐怖の“絆”で家族を縛る累に炭治郎が反発!


「第二夜 浅草編」のキービジュアル
「第二夜 浅草編」のキービジュアル[c]吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

そんな累は戦闘の最中、鬼である禰豆子が炭治郎をかばう姿を目の当たりにし、これこそが本物の絆だと感動。新しい家族の一員として禰豆子を欲する。禰豆子自身の意思を無視し、一方的に「僕の方が強いんだ。恐怖の“絆”だよ」「逆らうとどうなるかちゃんと教える」と言い放つ累に対し、炭治郎は「恐怖でがんじがらめに縛りつけることを家族の“絆”とは言わない」とバッサリ。決然と累に立ち向かっていく。

しかし、相手は初めて対峙する十二鬼月。累の蜘蛛の糸にからめとられて禰豆子を奪われ、日輪刀も折れてしまった炭治郎は、絶体絶命の状況に追い詰められる。誰が見ても、もう勝ち目がないと思われたなか、炭治郎を救うのが“過去の家族との記憶”である。死を覚悟した炭治郎の脳裏に、万華鏡のようにこれまでの人生が浮かんだあと、走馬灯が流れ始める。ここで、この回の冒頭で胡蝶しのぶが善逸に走馬灯の役割について語るシーンが伏線となって効いてくる。「鬼滅の刃」では登場人物たちが絶望しかけた時、大切な人との温かい思い出がよみがえり、その記憶が心を励まし、奮い立たせてくれる。

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