【今週の☆☆☆】自由を愛した「ムーミン」作者の軌跡『TOVE/トーベ』、国家の巨大な闇に迫る『コレクティブ』など週末観るならこの3本!
MOVIE WALKER PRESSスタッフが、週末に観てほしい映像作品3本を(独断と偏見で)紹介する連載企画。今週は、ムーミンの生みの親、トーベ・ヤンソンのアーティストとしての生きざまを描くヒューマンドラマ、巨大な汚職事件の真相に迫るジャーナリストを追ったルーマニア発の衝撃ドキュメンタリー、終戦を知らされないまま約30年の日々をジャングルの中で過ごした小野田旧陸軍少尉を描く力作の、圧倒される3本!
一瞬、一瞬を正直に生きていくトーベの姿に背中を押される…『TOVE/トーベ』(公開中)
日本はもちろん、世界中で愛され続けている「ムーミン」。その作者として知られるトーベ・ヤンソンの人生を描いた本作では、ムーミン誕生の秘話はもちろん、トーベの素顔に肉薄。アーティストとしての意思がまっすぐに伝わる、すがすがしい仕上がりだ。画家を志しつつも、芸術家として有名な父から「才能がない」と見下され、女性であるためにフィンランドのアート界でも評価してもらえない。そんな現実に反発するというより、徹底して自らのやりたいことを貫く。私生活では既婚男性、続いて既婚女性との恋を経験し、まさに一瞬、一瞬を正直に生きていくトーベ。その姿に誰もが背中を押されるはず。
デザイン画などあちこちにムーミンの人気キャラが登場し、文字の順番を入れ替える独特の「ムーミン言葉」もセリフに取り入れるなど、ムーミンの世界をちょっとでも好きなら、テンションの上がるシーンが多数。一方で、ほんわかした作品イメージとは異なる、赤裸々な日常生活や恋愛劇の描写に“ギャップ萌え”させるのも、これまた天才作家の映画ならではの魅力。(映画ライター・斉藤博昭)
驚き、怒りに震え、恐れ慄く。カメラと被写体との距離感が絶妙…『コレクティブ 国家の嘘』(公開中)
2015年、ルーマニアのブカレストのクラブ“コレクティブ”で、ライブ中に火災が発生。27名の死者、180名の負傷者を出す大惨事に。ところが国内の病院に運び込まれた患者が次々死亡。死者は64名に膨れ上がる。一体、何があったのか!?
カメラは、真実を追い始めたスポーツ紙の編集長に密着する。我々観客は、彼が炙り出していく製薬会社と大病院経営者の癒着、杜撰な治療、製薬会社社長の事故死などを、リアルタイムで知覚するかのように、驚き、怒りに震え、恐れ慄くことに。時に目の表情まで肉薄、時に引いて見つめる、カメラと被写体との距離感が絶妙だ。さらに政府の関与など、国を覆う“巨大な黒い癒着網”が浮かび上がる。真実に近づくごとに危険が迫るが、恐れぬ報道によって大規模な抗議行動が起こり、遂に内閣総辞職に。しかし――。
ヤッタ~、巨悪を倒した!とならぬのが、ミソ。映画後半は、腐敗したシステムを変えようとやって来た正義感に溢れる若い保健省大臣の奮闘を加え、内外から事の次第を見つめる。だが…嗚呼、もうやるせない!これが世界の理か。激しく打ちのめされながら、胸の中の泡立ちは激しさを増すばかり。とにもかくにも必見作である。(ライター・折田千鶴子)
極限の牢獄をさまよう、人間の存在そのものが胸に迫る…『ONODA 一万夜を越えて』(公開中)
フランスのアルチュール・アラリ監督と日本人キャストのコラボレーションによって完成した本作は、ひとりの日本兵の想像を絶する軌跡を描き上げた実録サバイバル・ドラマ。1945年に日本軍が敗れた後も、戦争が終わったことを知らぬまま、フィリピン・ルバング島で29年間もゲリラ戦を繰り広げた小野田寛郎の物語だ。病気や飢えで次々と仲間を失い、わずか3人の部下を率いて鬱蒼とした山奥にこもった小野田。映画はその悲惨な状況を生々しく描きながら、移ろいゆく時間の経過をじっくりと見せていく。かつての上官の教えに囚われて“死ぬ”ことさえ許されず、もはや存在しない敵の情報収集、農作物の略奪を続けて生き抜くことの不条理さ。やがて終盤、異国の大自然でひとりぼっちになった小野田の虚ろな姿から凄まじい孤独がにじみ出す。戦争の空しさのみならず、ジャングルという極限の牢獄をさまよう人間の存在そのものが胸に迫ってくる衝撃的な作品だ。(映画ライター・高橋諭治)
週末に映画を観たいけれど、どの作品を選べばいいかわからない…という人は、ぜひこのレビューを参考にお気に入りの1本を見つけてみて!
構成/サンクレイオ翼