『犬神家の一族』4K修復版がすごい…若々しい石坂浩二や坂口良子の魅力を再発見!
さて、具体的にどこがどうすごいのか。まず挙げたいのは、やはり冒頭のオープニングクレジットで見られる“市川明朝”だ。黒い背景に白文字の明朝体、L字型に配列されたそれは、やはり高精細であればあるほど格好が良い。黒味の部分が締まることで白と黒の境界線がハッキリし、そのソリッドさが高まり、一瞬でこの映画の世界に引き込まれることだろう。そして石坂浩二演じる金田一耕助が那須にたどり着いた時の街並みや、那須ホテルの窓から見える湖畔の風景と、屋外のシーンで修復を経て蘇った色調の美しさがここぞとばかりに発揮されている。
すでにKADOKAWA映画公式YouTubeで公開されている比較動画や比較画像を見れば、従来のマスターとの違いは一目瞭然であろう。さらに屋内シーンでの美術のディテールがよりはっきりと確認できたり、劇中にインサートされるモノクロの回想シーンの強烈さもより一層のインパクトを放つ。そしてもちろん、ミステリー映画である以上欠かせない人物の微細な表情の変化も取りこぼさずに確認できることがあまりにも大きい。おかげで物語の顛末がわかっていたとしても、ついつい新たな推理を働かせずにはいられないだろう。
なんとも言えない素朴な雰囲気をかもしだす、当時30代中ごろの石坂の金田一耕助っぷりに、高峰三枝子や島田陽子、草笛光子ら女優陣の美しさ。特に那須ホテルの女中はる役を演じる坂口良子の魅力が、従来のいかなるバージョンよりも高まっているようにも思える。スターの輝きをしっかりとカメラに記録する様は、かつての大映映画を彷彿とさせるものがある。そうした往年の日本映画のスピリットが、日本映画の新たな幕開けを告げた「角川映画」でも継承されていたことを改めて実感すると同時に、それをこんな新作のようなルックで味わえるとなれば、映画鑑賞という体験においてこんなに幸せなことはない。
この「角川映画祭」は、今後全国順次開催を予定しているが、劇場に足を運べないという人もご安心を。12月24日(金)には充実の映像特典や190ページ以上の完全資料集成が同梱された『犬神家の一族』4Kデジタル修復Ultra HD Blu-rayが発売されることが決まっており、またApple TVアプリの「MOVIE WALKER FAVORITE」チャンネルでの4K配信も順次予定されている。是非ともこの機会にお好きな方法で、日本映画の歴史を文字通り塗り替える“事件”を目撃してほしい。
文/久保田 和馬