小松菜奈と坂口健太郎が桜吹雪が舞うなかで愛を紡ぐ『余命10年』の現場を直撃
「ご遺族の方から、小坂さんが生きた証を残したいという想いを受け取りました」
藤井監督は、亡くなった小坂氏の親族から話を聞いたことが、本作を監督するにあたって非常に大きかったという。「ご遺族のみなさんにお会いし、親御さんから娘さんがどう生きたのかというお話を何時間も伺いました。最初は寡黙だったのですが、親族の方々もどんどん心を開いてくれて、僕はそこで娘さんが生きた証を残したいという想いを受け取りました。だから、彼女がどう死んでいったのかを描くのではなく、彼女がどう生きたのかという10年間をしっかり描こうと思ったんです」
藤井監督は「キュンキュンするような恋愛映画を撮ろうとは思ってなかったです」とキッパリ言う。「例えば通常、恋愛映画のドラマツルギーとしては、どこで2人がお互いを好きになったかを示し、抱きしめ合ったりイチャイチャしたりするシーンなどをもっとわかりやすく描くのかもしれませが、今回はそこ排除したというか、わかりやすく作ってないです。本作では恋愛を描いていても、やはり茉莉ちゃんの人生を描く人間ドラマだというところに重点を置いているので。でもそうすることで、いまを生きる人たちに、なにかが届くはずだとも思いました」
また、劇伴音楽を人気ロックバンド「RADWIMPS」が担当している。RADWIMPSが映画全編の音楽を手掛けるのは、新海監督作品のアニメ映画『君の名は。』(16)、『天気の子』(19)に続き3作目で、実写映画を手掛けるのは初となった。「画だけではなく、芝居や音楽など、いろんなものが合わさったのが映画なので、画だけのアプローチにはならないように気をつけています。音楽も脚本の段階から作ってくれたので、それをみんなで共有し、じゃあここはこういう画かな、こういう芝居かなと、全部署でやりとりができたことにもすごく満足しています」
撮影は、2020年のコロナ禍でスタートしたので、様々な困難もあったようだ。「コロナとドン被りで撮ったことは、一生忘れられない経験です。みんなで毎週PCR検査をしていたし、握手もできなければ、飲みにも行けない。そんななかで1年間この映画と向き合うことは、並大抵の精神じゃできなかったです。でもやっぱりキャストやスタッフも含め、すばらしい環境でやらせてもらえたからこそ、その瞬間を丁寧に残せてきたので、それはみなさんのおかげです」
隅々までこだわり抜いたという藤井組だが、あまりにも情熱を注ぎすぎているせいか「本作の次に撮る映画が心配です。これで燃え尽きてしまいそうなので(苦笑)。正直なところ、『これでもう監督はできません』と言われてもかまわないというくらいの想いで1年間向き合ってきましたから、悔いはないという感じです」と、まさに全身全霊を懸けた作品となったようだ。
最後に藤井監督はこう力強く締めくくった。「うちのチームはめちゃくちゃ若くて、僕が34歳(撮影時)で、平均30代前半のチームです。そんな僕たちが、こんなに規模の大きな映画を長い期間かけて撮影させてもらえること自体が、きっと映画人たちにとっての希望になるのではないかと。コロナ禍でも決して腐らず、こだわってしっかりと映画を作っている人たちもいるんだということを見せたいとも思いました。今後も僕は、自分でどんどん壁を壊していきたいし、自分のなかでアップデートをしてきたいです」
取材・文/山崎伸子