『ハリー・ポッター』のキーパーソン、シリウス・ブラックの人間味あふれる魅力を振り返る
純血主義のブラック家に反発し、家族や親族と決別
ブラック家は、マグル出身者を認めない純血主義を尊ぶ家系で、親族のほとんどがホグワーツ魔法魔術学校でスリザリンに組分けされている。しかし、そんな伝統に反発していたシリウスはグリフィンドールに入り、そこで生涯の友となるジェームズやリーマス、裏切り者のペティグリューらと出会う。在学中、リーマスが人狼であることを知った3人は、オオカミの状態でも一緒に行動できるようにと、動物もどき(アニメーガス)の術を非合法に習得。シリウス自身は大きな黒いイヌに変身できるようになった(このことがアズカバンの脱獄にも役立っている)。
グリフィンドール生というだけでなく、マグルの文化にも親しむようになったシリウスにブラック家の人々が良い顔をするわけがなく(第1作『ハリー・ポッターと賢者の石』の冒頭でハグリッドが乗っていたオートバイはシリウスから譲り受けたもの)、シリウスも家族や親族を軽蔑していたため絶縁状態に。物語開始時点でブラック家はシリウスを残して絶えてしまっているが、レストレンジのほか、不死鳥の騎士団のメンバーであるニンファドーラ・トンクスの母でマグルのテッドと結婚したアンドロメダ、ドラコ・マルフォイの母ナルシッサらもシリウスとはいとこの関係。ちなみに、ウィーズリー家もブラック家とは遠い親戚にあたるそう。さらに、シリウスにはレギュラスという名の弟もいたのだが、ヴォルデモートとの戦いにおいてある重要な役割を担っていたことがのちに判明する。
スネイプとの関係など、ダークな過去も明らかに
「ハリー・ポッター」シリーズといえば、物語が進むにつれて、ダンブルドアやジェームズといった完璧な人間だと思われていた登場人物たちの暗い過去も明らかになっていくのが特徴。シリウスもそういった影の部分が描かれている人間味のあるキャラクターで、『~アズカバンの囚人』ではネズミに変身したペティグリューを捕まえようとして、グリフィンドール寮の入口を管理する絵画「太った婦人」をズタズタに切り裂いたり、ロンの足にケガをさせたりと、いら立ちを露わにして衝動的な行動を取ってしまうところが。また、秘密の守人と呼ばれる情報を守る役割を自分ではなくペティグリューにしてしまったことが原因で、ヴォルデモートから身を隠しているポッター夫妻の居所が流出したことに対して、激しい怒りや深い後悔を抱えている。
また、『~不死鳥の騎士団』では、ホグワーツ在学時にセブルス・スネイプをジェームズらと一緒にいじめていたという衝撃の事実も発覚する。大勢でスネイプを逆さに吊し上げ、嘲笑している姿は、ハリーはもちろん、ファンにも大きなショックを与えたはず。映画では描かれていないが、命の危険があるとわかっていながら、オオカミ状態のリーマスがいる叫びの屋敷にスネイプをけしかけた過去も(この時にスネイプを助けたのがジェームズ)。これらのことから、シリウスとスネイプは犬猿の仲であり、こちらも原作小説で確認できる描写になるが、『~炎のゴブレット』の終盤、ダンブルドアの指示で2人が握手した時には互いに不服そうな顔をしており、その遺恨は消えなかったと思われる。
個性派の名優、ゲイリー・オールドマンが創り上げた魅力的なシリウス像
映画でシリウスを演じたのは、ロンドン出身の演技派、ゲイリー・オールドマン。近年では、『裏切りのサーカス』(11)でアカデミー主演男優賞に初めてノミネートされると、同賞を『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』(17)で初受賞し、Netflixで配信された『Mank/マンク』(20)でも3度目の候補に選ばれている。
同業者からの人気が高いことでも知られ、ブラッド・ピットやシャイア・ラブーフ、クリスチャン・ベールらに影響を与えているほか、ハリー役のダニエル・ラドクリフも大ファンを公言していて、撮影中は様々なアドバイスを受けたそうだ。
「ハリー・ポッター」シリーズ以前のオールドマンといえば、『レオン』(94)、『フィフス・エレメント』(97)、『ハンニバル』(00)といったエキセントリックな悪役のイメージ。原作小説では30代半ばで死亡するシリウスを『~アズカバンの囚人』当時46歳だった彼がキャスティングされたことに驚く声があったかもしれない。しかし、凶悪犯だけど実はいい人というミステリアスさ、無実の罪で12年も監獄にいたがゆえの狂気を表現するという部分でも、オールドマン以上のシリウス像はなかったのではないだろうか。オールドマン自身にとってもシリウス役は転機となり、クリストファー・ノーラン監督の「ダークナイト・トリロジー」(05、08、12)で善良な警官のジム・ゴードンを演じるなど、演じる役柄の幅が広がるきっかけにもなった。
今回はシリウス・ブラックにフォーカスしたが、登場人物それぞれに奥深いバックグラウンドがあるのも「ハリー・ポッター」シリーズの魅力。気になったキャラクターについて掘り下げてみて、改めて映画や原作小説に触れれば、新たな発見があるかもしれない。
文/平尾嘉浩