新時代のファッション・アイコンが美の競演!『ラストナイト・イン・ソーホー』でまとうスウィンギング・ロンドンな衣装にうっとり
『ベイビー・ドライバー』(17)のビビッドで“新感覚”な音楽遣い×華麗なカーアクションで、味あるオタクテイストから一気に一皮も二皮も剥けたエドガー・ライトが、さらに洗練された感性をみなぎらせた。いよいよ12月10日(金)より公開となる『ラストナイト・イン・ソーホー』だ。本作では“60年代ファッション”דタイムリープ・サイコ・ホラー”という魅惑の掛け合わせで、物語を雄弁に語って見せた。
『ジョジョ・ラビット』(19)や『オールド』(20)など、目覚ましい活躍をみせるトーマシン・マッケンジーと、Netflixの大ヒットシリーズ「クイーンズ・ギャンビット」(20)で脚光を浴び、「マッドマックス」シリーズのスピンオフ作品で主役を引き継ぐことが決まっているアニャ・テイラー=ジョイ。新ファッションアイコンとしても注目されている、最旬女優2人の競演に、ファッション通も映画ファンも大いに歓喜するはずだ。目が離せない夢幻の世界、その彷徨える“時間旅行”に怖がらず足を踏み入れよう。
60年代と現代で夢を追うヒロインたちの、“シンクロぶり”を表すファッション
大都市の繁華街の代名詞<ソーホー>の、芸術家やミュージシャンや遊び人たちがたむろする、どこかノワールで猥雑な“60年代ソーホー”の香り、空気はあまり変わらないが周囲にビルが建ち並ぶ現在の“ソーホー”、2つの時代を行き来できるのも興味深い。
冒頭、ファッションデザイナーを目指すエロイーズ(トーマシン・マッケンジー)が、新聞で作ったドレスを着て踊るシーンが登場する。部屋に貼られたポスターは、『ティファニーで朝食を』(61)と『スイート・チャリティ』(69)。60年代カルチャーを愛する、彼女の好みも伺い知れる。斬新なデザインのドレスは十分魅力的だが、洗練さという観点からすると、まだ才能が花開く前のつぼみといったところ。ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションに合格してロンドンに出た彼女は、刺激的な街の雰囲気に圧倒されてしまう。
そんなエロイーズが、夢の中で毎回出会う女性が60年代ソーホーで歌手を夢見るサンディ(アニャ・テイラー=ジョイ)。エレガントな装いのサンディに憧れ、ファッションも感性も影響されていくエロイーズ。サンディが身にまとう数々のファッションが、本作の最大の魅力と言っても過言ではないだろう。60年代ファッションは、何度もブームが繰り返されるように、レトロでありながらとっても新鮮。
本作で衣装デザインを担当したオディール・ディックス=ミローは、60年代のロンドンを舞台にした『17歳の肖像』(09)でも衣装を担当したベテランだが、本作ではブリジット・バルドーやジュリー・クリスティを参考に衣装を手掛けたそうだ。冒頭の新聞ドレスについては「当時のドレスのほとんどはストレートな形だったけれど、シフォンが美しく動くさまを表現したかった」「50年代後半の(スウィンギン・ロンドンを代表するブリットモデルの)ジーン・シュリンプトンの写真を参考にしました」とも語っている。
サンディがエロイーズの夢に登場するたび、私たちも次はどんなファッションで現れるか待ち遠しくなる。トップにボリュームを効かせて毛先をカールしたヘアスタイルに、ミニのワンピースが基調となるサンディのファッションは、まさに“スウィンギング・ロンドン”を体現するよう。特に印象的なのは、“カフェ・ド・パリ”に入って来るときの、スパンコールネックのサーモンピンクの柔らかでゆったりしたシフォンの“テント・ドレス”だろう。シルバーのピンヒールを合わせたエレガントなスタイルに、思わず溜息!
サンディを真似してエロイーズが現代の古着屋で同様の品を手に入れて着用する、白のエナメルコート&白のショートブーツというポップな装いも、強く印象に残る。まさに当時のファッション・アイコン、ブリジット・バルドーを彷彿させる髪型とメイクで、遊び心にあふれたコケティッシュさに脱帽だ。
サンディにどんどん影響されていくエロイーズは、ついに髪の色まで同じようにプラチナ・ブロンドに染め、サーモンピンクのテント・ドレスを思わせるドレスを授業で作り始める。しかし、それはすなわち、現代と夢の世界がより濃密に混じり始めた証にほかならない。そうして映画は少しずつ、不穏な空気の密度が増し、狂気が入り込んでくる――。