「痛感したのは、映画への敗北感」“体験型エンタメ”『劇場版スタァライト』古川知宏監督が明かす、シネスコ画面の裏側
ミュージカルからアプリゲームまで様々なかたちでメディアミックス展開がされてきた「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」。2018年に放送されたテレビアニメシリーズと劇場版総集編を経て製作された、完全新作『劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト』は2021年6月に公開されて以来、アニメファンはもちろんコアな映画ファンにも大きな反響を集め、年末に発売されたBlu-rayは好調なセールスを記録している。
MOVIE WALKER PRESSではこの発売にあわせ、本作のメガホンをとった古川知宏監督にインタビューを敢行。いわゆる“劇場版”ではなく一本の“映画”として本作を制作した理由を尋ねていくなかで、古川監督自身が影響を受けた作品や映画人たちについての熱い想い、そして本作に感じている意外な敗北感まで浮かび上がってきた。
「最近のアニメ映画と比較したら“ズレている”映画かなと感じていました」
国内有数の演劇学校である聖翔音楽学園を舞台に、卒業後の進路に悩む99期生の舞台少女たちがキラめきを追い求める物語と聞けば、「ラブライブ!」シリーズに代表されるような少女たちの青春模様を描いたアニメーションを想像する人も少なくないだろう。しかし冒頭、観客の前に真っ先に現れるのは、シネマスコープの画面いっぱいに映しだされた巨大なトマト。そしてそのトマトが破裂し、血しぶきを上げるように果肉が弾け飛ぶ光景だ。オーケストラが奏でる劇伴が勇壮に鳴り響くなか始まる120分は、時間や空間を超越した展開、“レヴュー”と称される前衛的でメタフィクショナルな決闘シーン、先行作品からのある種の意図的なモチーフの引用…とノンストップで展開していき、一度観ただけでは到底咀嚼しきれない作品となった。
1981年生まれの古川監督は、アニメーターとしてキャリアをスタートさせ演出家に転向。「少女革命ウテナ」などの幾原邦彦監督のもとで、2011年のテレビアニメ「輪るピングドラム」では絵コンテ・原画や脚本で、2015年の「ユリ熊嵐」には副監督として参加。「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」で初監督を務め、本作が初めてのオリジナル長編映画監督作となった。
公開後口コミが広がったことで話題を呼び、数か月にわたり劇場を満員にするなど、ある種の現象と言える盛り上がりを見せた本作だが、古川監督自身はこの状況にも「自分のところにはあまり反響が届いていなくて、正直実感と呼べるものはないです」と冷静に向き合っている。「ただ、最近のアニメ映画や邦画と比較したら“ズレている”映画になるのかなと、作っている最中から感じていた部分はありました。それにみんな驚いてくれたのかもしれませんが、完成した作品に向き合った時、スタッフの力を引きだしきれなかった自分の未熟さ故に満足のいく仕上がりにならなかったというある種の“敗北感”も感じていました」。
「映画かテレビかを問わず、いまはアニメーションの作品数があまりにも多く、大きなスタジオの作品やネームバリューのある監督の作品ですら優秀なスタッフを集めるのは難しい現状があります。そのなかで、純粋な“クオリティを追求した映画”を作るのは物理的に難しい。テレビシリーズを単純に拡張したものにしないためには、映画の別の側面である“体験”に振り切るしかないと思った結果、このような作品になったのですが、その一方で普通の方が想像する“映画”としては、やり切れていないのではないかという想いはあります」。