「痛感したのは、映画への敗北感」“体験型エンタメ”『劇場版スタァライト』古川知宏監督が明かす、シネスコ画面の裏側

インタビュー

「痛感したのは、映画への敗北感」“体験型エンタメ”『劇場版スタァライト』古川知宏監督が明かす、シネスコ画面の裏側

「僕をアニメ業界に導いたのは、14歳で出会った『エヴァ』」

映画技法について前のめりに言葉を重ねていく古川監督は、まさに映画青年という佇まいで、ジャンルを問わず様々なコンテンツを咀嚼してきたことが、言葉の端々からも明確に伝わってくる。なかでも特に大きな影響を受けたというのが、庵野秀明監督だ。「小学生のころに『ふしぎの海のナディア』を観て、14歳で『新世紀エヴァンゲリオン』に出会い、遡るようにして『トップをねらえ!』を観たり、庵野さんが敬愛している岡本監督の作品をレンタルビデオで観て…とのめり込んでいきました」と振り返り、「『エヴァ』と出会っていなかったら、僕はアニメ業界に入っていなかったと思います」と断言。

庵野監督と師匠である幾原監督の“映画”についての想いを語る古川監督
庵野監督と師匠である幾原監督の“映画”についての想いを語る古川監督

2021年3月に公開された『シン・エヴァンゲリオン劇場版』について尋ねると、複雑な表情を浮かべつつ、「自分のなかにずっといたエヴァに別れを言えてスッキリしましたが、まだ『シンエヴァ』を“映画”として受け止めきれてはいませんね…」としみじみ語る。「庵野さんから受けた影響は、作品づくりのうえでのカット割やリズムに表れているように自分では感じています。対照的に師匠の幾原さんからは、現場のスタッフやコストなどのリソースをコントロールする力、またそれ自体を作品のカラーに変換させる技術を勉強させてもらったので、自分が作品を作る時にはその両方を組み合わせている感じです」。

9人の“舞台少女”たちは新たな舞台へと向かっていく
9人の“舞台少女”たちは新たな舞台へと向かっていく[c]Project Revue Starlight

オリジナリティあふれる世界観で、常に新作が注目を集める幾原監督だが、その素顔を古川監督は「意外と他人の視点が入ってくるのを好む人」だと明かす。「映像の根源にあるリズムのようなものは僕と幾原さんでは全然違っていて、だからこそ僕を使ってくれていたのかもと感じています。それは誰がやっても幾原さんのフィルムに見えるような強固な世界観を作る力があるからなのでしょうね」と敬意をのぞかせる。「師匠にはまた劇場版『美少女戦士セーラームーン R』を超えるような、完全新作の映画を撮ってほしいですね」。

「次こそは、憧れていた“映画”にチャレンジ」

14歳で「エヴァ」に衝撃を受けた少年の衝動、恩師・幾原邦彦から得た学び、そしてなにより映画への深い畏敬の念が結実した『劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト』は、単なる「テレビアニメの劇場版」の枠を超え、多くの映画ファンをスクリーンへといざなった。Blu-rayが発売されたいまなお上映館を増やし続けていることが、なによりの証だろう。

『劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト』のBlu-rayは好評発売中。デジタルセル・レンタルも配信中
『劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト』のBlu-rayは好評発売中。デジタルセル・レンタルも配信中[c]Project Revue Starlight


だが古川監督は、それでも“敗北感”を口にする。「自分が監督として映画を作っていくなかで、様々な制約のなかで本作を“体験”に振り切った作品にすることを選びました。でも、自分の未熟さゆえに憧れていた“映画”にはなりきらなかったのではないかという想いが、僕の感じている敗北感の正体かもしれません。本作が完成したあとで改めて自分の礎となった作品たちを辿ってみた時に感じたのは、自分はどうしようもなくただのファンなんだということでした」。

「ただ、」と古川監督は続ける。「自分が映画とどう向き合っていくか、どう作っていくかと試行錯誤していくなかで、やっぱり映画を好きでよかったなと実感したことが何度もありました。後悔が残った部分もありますが、チャンスをいただけるなら今後も映画作りにチャレンジしていきたいと願っています。次はもう少し別の意味で“映画らしい映画”を作ってみたいですね」と目を輝かせる。“敗北感”と、あふれんばかりの映画への愛を携えて、古川監督は次の舞台へ向かっていく。その先にある映画の“キラめき”を掴み取るために。

昨年末に「タイトル未定作品」のPVを発表した古川監督。憧れの“映画”に向かい新たなステージの幕が上がる
昨年末に「タイトル未定作品」のPVを発表した古川監督。憧れの“映画”に向かい新たなステージの幕が上がる

取材・文/久保田 和馬

関連作品