スクリーンで軽快かつ艶やかに輝く、“俳優”松本潤。『花より男子』『ナラタージュ』から『99.9-刑事専門弁護士- THE MOVIE』まで
俳優として覚醒した『花より男子ファイナル』(08)
2005年1月に『東京タワー』公開と同じ年の10月からスタートしたドラマ「花より男子」のヒットがきっかけとなり、松本も嵐も大ブレイクしたのは知っての通り。ドラマは2007年放送の「花より男子2(リターンズ)」に続き、2008年の映画『花より男子ファイナル』で完結を迎える。
まず、このドラマおよび映画化作品によって、“俳優、松本潤”のスイッチが本格的に入ったことは間違いないだろう。というのも、ジャニーズ仲間以外の同世代の俳優たち、それも演技派と注目されていた小栗旬や松田翔太とのガチ共演は、強烈な刺激になったと感じるからだ。特に小栗旬とは、原作コミックを読みたびたび演技論を交わしながら現場に臨んでいたと、のちのインタビューで明かしている。つまり、ワイルドな“俺様”キャラの道明寺司(松本)とエレガントでちょっと臆病な花沢類(小栗)の好対照プリンスは、刺激し合う2人の俳優だからこそ生まれた、唯一無二の化学反応がもたらしたものなのだ。その切磋琢磨の結実が映画『花より男子ファイナル』であることは、言うまでもない。
ともあれ、貧乏なヒロインと財閥の御曹司がトラブルを乗り越えて結ばれるスリリングなロマンスも楽しいが、お金持ちのイケメン高校生軍団“F4”が影になり日向になり恋を応援する永遠の友情物語にも、胸が熱くなるばかりだ。
こうして振り返ると、松本にとって、長きにわたり同じキャラクターを演じ続けながら鮮度を保ち、なおかつ内面の成長を表現していくことの重要性を意識し技を磨いたのは初めて。そしていま、その経験が新作『99.9』でも生かされていることにも、気づかされる。
“普通の男”という難役『ナラタージュ』(17)
2006年版「この恋愛小説がすごい」第1位に輝いた島本理生の同名恋愛小説を映像化した『ナラタージュ』は、松本にとってクリア必須の課題ともいうべき“普通の男”に挑戦した意欲作。演じるのは30代の高校教師、葉山貴司。妻と別居しているが、離婚はしていない。そんな彼が、かつての教え子の工藤泉と、1年後に再会。お互いに胸に秘めた想いが抑えられなくなり、禁断の扉を開けようとするが…。
高校時代にいじめから救ってくれた葉山先生への想いが断ち切れないヒロインの泉役には、可憐なルックスと豊かな表現力に定評のある有村架純。ドラマ「失恋ショコラティエ」で松本の妹役を演じて以来の再共演だけに息もピッタリ。ふたりの想いが爆発するシャワールームのずぶ濡れシーンをはじめとした愛が交わるシーンは狂おしいばかり。狭いバスルームの中でシャワーの角度やふたりの濡れ具合、カメラの位置など、何度もリハーサルを経て臨んだ本番だったとか。
しかし、松本のこだわりはそのハイライトなシーンだけに限らず、秘めたる想いを込めた静かな場面にもあり。たとえば、卒業の挨拶をした泉が部屋を出るシーン。見送る葉山の表情はもとより、彼がドアを閉める速度、腕の角度などまで考え抜いているとか。また、再会したふたりが歩きながら短い言葉を交わすシーンにも注目。松本演じる葉山先生には、実は妻の過去にこだわって離婚できない優柔不断さと、それでも泉への思いが断ち切れない男のエゴが漂っていて、なんとリアル。「こういう男、いるよねぇ」と女子は納得してしまうのだ。
松本の魅力がぎゅっと凝縮『99.9-刑事専門弁護士- THE MOVIE』
さて、約20年間の映画キャリアの集大成でもあり、新しい“俳優、松本潤”の幕開けともなる『99.9-刑事専門弁護士- THE MOVIE』。このシリーズでの松本と言えば、事件にまっすぐ向き合う鋭い洞察力を持った弁護士ながら、その一方でオヤジギャグを連発したり、興味のある分野に強いこだわりがあったりとやや風変わりな役どころ。近年の映画における松本の、クールだったり、わかりやすく美形なキャラであったりからは一転、シリアスとコミカルを絶妙にミックスした稀有なキャラクターを生みだした。
“オヤジギャグを言うキャラ”というと、一見軽いようなキャラにも感じるが、撮影に向け常にネタを考えているというさすがの意識で臨んでおり、事前にそれを本番に組み込むためのアイテムを美術スタッフに伝えたりしているんだとか。持ち前の端正なルックスにふさわしい、ネイビーブルーのカッチリとしたスーツ姿と、個性の光る軽快なキャラクターという、松本の魅力が凝縮された役と言っても過言ではない。
そして2023年には、これまで映画はもちろんドラマでも磨き続けてきたスキルをさらに磨いて臨むであろうNHK大河ドラマ「どうする家康」も控える。様々な役柄に挑戦し続け、ますます進化を遂げていく松本の今後の活躍にも注目していきたい。
文/金子裕子