堤真一が語る映画『鹿の王』への父親目線での共感「“守るべき者”や“なにものにも代えがたい存在”がいるというのは、生きる力になる」

インタビュー

堤真一が語る映画『鹿の王』への父親目線での共感「“守るべき者”や“なにものにも代えがたい存在”がいるというのは、生きる力になる」

累計発行部数250万部を誇り、2015年の本屋大賞に輝いた、上橋菜穂子のファンタジー小説をアニメーション映画化した『鹿の王 ユナと約束の旅』(2月4日公開)。強大な帝国が支配する世界で、謎の病から生き延び旅を続ける血の繋がらない“父と娘”、病を解明して人々の命を救おうと奔走する“天才医師”そして、密命を受けて病から生き延びた男を追う“謎の狩人”。彼らの過酷な運命が交錯していく。壮大な世界観のなかに、緻密な医療サスペンスと人々の絆の物語が織り込まれた感動巨編に仕上がっている。

上橋菜穂子のベストセラー小説を日本屈指のアニメーターが映画化した『鹿の王 ユナと約束の旅』は2月4日(金)公開
上橋菜穂子のベストセラー小説を日本屈指のアニメーターが映画化した『鹿の王 ユナと約束の旅』は2月4日(金)公開[c]2021 『鹿の王』製作委員会

意外にも声優の仕事が初めてだという堤真一が、主人公のヴァンを演じた。オファーを受けた時のことを「やりたい気持ちはあるけれど、自分には難しいと思いました。しっかり時間を掛けていただけると伺い、お受けしました」と振り返る。

「ヴァンはものすごく孤独で内に強さを秘めている男。自分の親父をイメージした」

オファーを受けるよりも前に、偶然にも原作を読んでいたというから、少なからぬ縁や運命を感じもする。「いつも本屋で表紙やタイトルが気になる本を選びますが、上下巻だった『鹿の王』はいっきに読んでしまいました。国同士の関わり合い方は少し複雑ですが、どうなるのかと興味がどんどん沸き、ぐいぐい惹き付けられる、その感じがすごかった。ただ、あまりにも壮大な物語なので、普通に映画化するのは難しいだろうと思っていました」と回想する。だからオファーを受けた時は、「なるほど、アニメーションという手があったのか!」と驚きながらも、腑に落ちたそうだ。

堤が自身の父親をイメージしたというヴァン。寡黙でだからこそ、キャラクターを表現するのに苦労したとか
堤が自身の父親をイメージしたというヴァン。寡黙でだからこそ、キャラクターを表現するのに苦労したとか[c]2021 『鹿の王』製作委員会

最強の戦士団「独角」の最後の頭だったヴァンは、強大な帝国・東乎瑠(ツオル)との戦に敗れ、奴隷として強制労働させられていた。だが謎の疫病、ミッツァルが帝国を覆い尽くし、その混乱に乗じ、ヴァンは生き残った幼い少女ユナを連れて逃げ出す。演じたヴァンについて、「ものすごく孤独で、内に強さを秘めている男。昭和の戦争経験者というか、それこそ自分の親父をイメージしました。ただ、強さを全面に出すわけでもなく、復讐心をたぎらせているわけでもないヴァンは、少しわかりにくいキャラクターだと思います」と語る。

そんなヴァンが、血の繋がらない幼い少女ユナを助け、命懸けで守ろうとする展開から少しずつ現れてくる人間味、そして2人が育んでいく絆が見どころだ。堤も「ユナと暮らしていくなかで、ヴァンはかつて失ったすべてのもの、普通の幸せや家族の愛情などを、再び持てるようになる。やっぱり“守るべき者”や“なにものにも代えがたい存在”がいるというのは、生きる力になる。僕にも子どもがいるので、すごくその感覚がわかりました。この子がいるから生きている、逆にこの子が必要としなくなったら自分は死ぬ、というような生命の営みや巡りみたいなものを日頃から感じているので。だからヴァンがユナと出会った瞬間、止まった時計が動きだす、運命が再び動きだす感覚になりました」と、ユナの存在の大きさを実感として強く捉えたそうだ。

 ヴァンが出会った身寄りのない少女ユナ。彼女の存在がヴァンに生きる希望を与える
ヴァンが出会った身寄りのない少女ユナ。彼女の存在がヴァンに生きる希望を与える[c]2021 『鹿の王』製作委員会

「体を動かさずに“それっぽい”声を出すことに、自分でも笑ってしまうような恥ずかしさがあった」

初めてのアフレコについて聞くと、「やっぱり、難しかったですね」と苦笑する。「まずもって声を入れるタイミングから僕には難しくて。画に合わせようとする焦りが音に出てしまったり、合わせるために最後のほうだけすごいスピードになったり(笑)。普段は身体を一緒に動かすことで声も自然に変わるものですが、体を動かさずに“それっぽい”声を出すことに、自分で笑ってしまうような、恥ずかしさが最初はありました。いままで普通に観てきましたが、アニメのアフレコをされる声優さんたちって、本当にすごいと思いました」と心底感心したという。


山犬の襲撃後、ヴァンの身体に変化が生じる
山犬の襲撃後、ヴァンの身体に変化が生じる[c]2021 『鹿の王』製作委員会

本人はそう謙遜するが、ヴァンのカリスマ性を感じさせる深く響く声音は、“さすが演技派の堤真一だ”と感嘆したくなるほど堂に入っている。「僕はヴァンのようにガッチリ体型ではないので、全然違うじゃないかと自分で思いつつ、大きな体のヴァンから出てくる声として、地響きみたいな音になればいいなと思いながら演じました。ただ、僕のアフレコに合わせてあとから画を作ってくださるシーンが多かったのと、寡黙なヴァンのセリフが少なかったことに助けられました」。

一見助けられたと思しきそれらは、新たな難しさにもつながった。「あまり多くを語らない役だけに、ヴァンがなにかを話す時は、ひとつひとつとても重く、大切なことを伝えることが多い。例えば、名前を聞かれてひと言、『ヴァンだ』というシーン。その人を信用しているから言うのか、単に名乗っただけなのかなど、どんな心情で言うのか?の判断がすごく難しくて、何度も繰り返しました。画ができていないシーンは、表情を確認することもできなかったので」。

初めて挑んだアフレコは「やっぱり、難しかった」と苦労を明かす堤
初めて挑んだアフレコは「やっぱり、難しかった」と苦労を明かす堤撮影/野崎航正

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