「新感染」シリーズ、「地獄が呼んでいる」の世界観はつながっているって知ってた?拡張する“ヨンニバース”のゾンビ・アポカリプス
Netflix史上最大のヒット作となった「イカゲーム」から、神からの“告知”を受けた人々が地獄の使者によって残酷な死を迎える超自然現象を描く「地獄が呼んでいる」、月面に沈む恐ろしい秘密を題材にした「静かなる海」、ゾンビウイルスが広がった学校を舞台にしたハイティーンゾンビ・サバイバル「今、私たちの学校は…」まで。様々なジャンルのNetflix韓国ドラマがいま、全世界を熱狂させている。去年話題をさらった作品のビハインド・ストーリーや、注目すべき待機作まで、Netflix韓国ドラマを紐解いていくシリーズコラム。
ヨン・サンホ監督がNetfilxオリジナルシリーズ「地獄が呼んでいる」で“ヨンニバース”(ヨン・サンホ+ユニバースの合成語で、ヨン・サンホ監督のゾンビ・アポカリプス作品の世界がすべてつながっているということを示す) をさらに広げた。「地獄が呼んでいる」は、「地獄に堕ちる」と告知された人間が、この世のものではない"なにか"に白昼堂々殺されるという怪事件が起きるなか、この現象を神の裁きだと主張する宗教団体の"新真理会"と、新真理会が扇動する大混乱に立ち向かう者たちの物語を描く。世界中の視聴者が「地獄が呼んでいる」の演出や作品に含まれているメッセージについて様々な議論をしながら、ヨン・サンホ監督が新しく披露したヨンニバースを楽しんでいる様子だ。
ヨン・サンホ監督は『新感染 ファイナル・エクスプレス』(16)、『ソウル・ステーション/パンデミック』(16)、『新感染半島 ファイナル・ステージ』(20)、『謗法:在此矣』(21)などの作品で不可抗力の災難や危機的状況を演出する。ハリウッド映画なら災難にしっかりと向き合って克服していく人々の孤軍奮闘を描くべきだが、ヨン・サンホ監督は混沌としたディストピアのなかから沸き起こる人間のエゴと、弱気な姿を怖いほど赤裸々に見せてくれる。
例えば「地獄が呼んでいる」では、"天使"と呼ばれるものが死期を告げに現れ、時間になると"地獄の使者"が告知を受けた人間を残酷に殺害し、地獄に落とす。実際その試演が地上波で生中継されると、衝撃と恐怖であっという間に社会が麻痺してしまう。過去に何か罪を犯していないか、自分の行動が人の目に"悪"として映ってはいないのか、誰もが不安に怯えながら生きるようになってしまう。新真理会のリーダー、チョン・ジンス(ユ・アイン)が扇動した混乱が立派な地獄絵図に塗り替えられてしまったのだ。「忌々しい」「なにか不愉快になる」との理由で「地獄が呼んでいる」の視聴をやめる者が大勢出るのも無理ではない。現実では起きる訳がない超常現象を描いているとはいえ、そこから広がる物語はあまりにも現代社会にそっくり似ているからだ。
「恐怖以外に人を正す方法が(ありますか)?」「自律した人間が作ったほうが正義だと思いますか」というチョン・ジンスの台詞からわかるように、「地獄が呼んでいる」は罪と罰、そして人間の自律に関して繰り返して問いかける。自分が信じているものだけが真実であり、真理であると思い込んでいる歪んだ正義。一抹の罪の意識さえ感じない人々の姿は、地獄そのものだ。
視聴者は結局「正義とはなにか」という根本的な質問に直面する。そしてラストシーンの「神が何か知らないし興味もありません。確かなのはここが人間の世界ということ。人間が世の中を回さないと。そうでしょう?」というタクシー運転手の台詞は、視聴者へのヨン・サンホ監督のメッセージを明確に含んでいる。彼は不確かさに耐えられない人間が作り出したディストピアを通して、最終的にはヒューマニズムについて考察するように導く。
ヨン・サンホ監督はいつも社会の暗い部分を観察している。『豚の王』(11)、『我は神なり』(13)、『窓』(12)では不条理な社会構造や権力の暴力性について語り、『サイコキネシス -念力-』(17)はソウル再開発地域での強制撤去事件を素材としている。『新感染 ファイナル・エクスプレス』は韓国のゾンビ映画の一線を画したとフォーカスされているが、「地獄が呼んでいる」と同じく、ゾンビより人間の利己心や暴力性が余程怖いというメッセージを伝えている。そして、このメッセージは『ソウル・ステーション/パンデミック』『新感染半島 ファイナル・ステージ』にも含まれている。
ただ、まったく救いがないわけではない。ヨン・サンホ監督は善人の犠牲でディストピアを克服できると提案している。「地獄が呼んでいる」のぺ・ヨンジェ(パク・ジョンミン)とソン・ソヒョン(ウォン・ジナ)は自らを犠牲にして赤ん坊を守るし、『新感染 ファイナル・エクスプレス』のソ・ソグ(コン・ユ)は感染拡大を防止するため、ゾンビになる前に列車から身を投げる。『新感染半島 ファイナル・ステージ』のジョンソク(カン・ドンウォン)はより多くの人を助けるため、大切な姉の命を諦める。人間のエゴから生まれた残酷なディストピアが、結局人間の犠牲によって回復する。いつもヨン・サンホ監督が作品の幕を下ろすルールなのだ。
ヨン・サンホ監督はチェ・ギュソク作家と共に、「地獄が呼んでいる」シーズン2の制作を発表。「地獄が呼んでいる」シーズン2は2022年夏に韓国にて、まずはウェブトゥーンで公開される予定だ。そして現在は、韓国の動画配信サービスTVINGオリジナルドラマ「怪異」を撮影している。「怪異」は、世には出てきてならない“それ”の呪いに惑わされた人々と前代未聞の怪異事件を追う考古学者の物語を描くファンタジースリラー。なによりもヨンニバースの世界観を拡張するという点で期待を高めている。
一つのテーマを様々なジャンルの映画、ドラマ、ウェブトゥーンで生みだすのは、決して簡単なことではない。そういうことができるのは、韓国にはヨン・サンホ監督しかいない。勿論、唯一無二だからといって、彼がいつも絶賛される訳ではない。『サイコキネシス -念力-』は興行面では大失敗を喫してしまい、業界からも高い評価を受けることはできなかった。しかし失敗を恐れず、世の中に伝えたいメッセージを発信し続けるヨン・サンホ監督の信念こそが、人々がヨンニバースに熱狂する原動力になっている。
文/柳志潤