“コロナの女王”岡田晴恵教授が『鹿の王』に感じたコロナ禍とのリンク…「模索する姿勢こそが、ウイルス学や感染症学の研究者の本質的なもの」
「若い人たちが、医師ホッサルが病に抗って、なにかを見つけ出そうとしている姿に共鳴してくれたら」
――これから私たちは、新型コロナウイルスとどう向き合っていくのがよいのでしょうか。
「人類の歴史を振り返ると、感染症と人間との闘いの連続であったように思われます。その時代には、その時代を象徴する感染症がいつも存在して、繰り返し大流行を起こしていました。だから、いまの私たちも決して特別な時代に生きているわけではないんです。これまでも、様々な感染症に直面した人々が、それを乗り越えることによって、歴史がつながれていたという事実を受け止めないといけない。そして、乗り越えるしかないんです」
――教育者として、特に若い世代に向けて思われることは?
「若い人たちが、本作の医師ホッサルが病に抗って、なにかを見つけ出そうとしている姿に共鳴してくれたら。彼らは、これからの人生を何十年も生きるわけですから。その時、また未知の感染症がやってくるという可能性は十分にある。それは歴史的にも証明されているので。だから、本作を観た子どもたち、もしくは若い方々が、チャレンジングな精神を持って、第二のパスツールや北里柴三郎になってくれたらいいなと願っています。親に言われたから勉強するじゃなくて、この映画を観ることで、自分のなかの気持ちを高揚させて、病に勝ち抜く医者や研究者になるために、情熱を持って勉強しようと思ってくれたら。そんなモチベーションにつながっていく作品だと思います」
「映画や本を通して、ぜひ“心の旅”をしてみてはいかがでしょうか」
――パンデミック時における精神的な不安や恐怖を追い払う、いい方法がありましたら教えてください。
「それはなかなか難しいですよね。いかに平常心を保つか…。私は学生たちには『“心の旅”をしなさい』と言っているんです。いい映画を観たり、いい文学小説を読んだりすると、時代や場所を超えて、いろんな世界に飛んでいけるよ、と。私自身、読書と映画鑑賞が大好きで、作品から勇気をもらったり、癒されたりしています。だから、感染症が流行っている時こそ、エンタテインメントは大事なんだろうなと思っています。
ちょうど昨年のいまごろに、カミュの小説『ペスト』がすごく読まれたじゃないですか。あれも、皆さんがやっぱり“心の旅”をされたんでしょうね。私は先日、トム・クルーズの『トップガン』をすごく久しぶりに観ました。公開当時、大学院生だったころに観た懐かしい作品なんですが、主人公が困難から立ち上がるところで、とても勇気づけられました。『鹿の王』も、やはり困難な状況から希望を見いだす物語です。いまは現実の旅は難しいけど、皆さんも映画や本を通して、ぜひ“心の旅”をしてみてはいかがでしょうか」
取材・文/石塚圭子