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何度でも観たくなる!恋愛コラムニストのトイアンナが読み解く『真夜中乙女戦争』登場人物たちの関係性

コラム

何度でも観たくなる!恋愛コラムニストのトイアンナが読み解く『真夜中乙女戦争』登場人物たちの関係性

「“私”が“先輩”に惹かれたのは、自分に関心を寄せてくれる人だったから」

池田が演じる“先輩”については「彼女が最初に“私”の前に現れた時、“絶対に叶ってはいけない恋の相手”なのだなと思いました。“先輩”はサークルのパーティーで一人浮いていた“私”に唯一声を掛けてくれ、その後も警備員に怪しまれた私を助けに来てくれたり、一緒に食事に行ったりなど、少しずつ“私”との距離を縮めていくが、トイは2人の関係性を、ただの恋とは捉えていない。「“私”にとって“黒服”がもう1人の自分であるなら、“先輩”は唯一彼に関わった他者なのかなと。もちろん“先輩”に対する想いには恋愛も含まれていると思いますが、その一方で彼女は、他人すべての象徴みたいなところがある。“私”はそもそも自分自身をちゃんと受け止めてないし、愛してもいないから、他人に興味を持てず、世界を空しく感じていた。でも先輩は、唯一“私”が関わりうる他人として存在してくれていて、本作ではそこで彼女(自分)を愛せるかどうかの瀬戸際を描いていきます」。

“私”が片思いする聡明な“先輩”
“私”が片思いする聡明な“先輩”[c]2022「真夜中乙女戦争」製作委員会

“私”は“先輩”と出会ったことで、いろいろな自我が目覚め、大切な人や、その人が暮らす東京の街を守りたいという、血の通った感情を抱くようになっていく。「“私”と関わるのは“先輩”じゃなくても、幼なじみでも母親でも良かったんです。でも“先輩”と出会って惹かれたのは、きっと自分に関心を寄せてくれる人だったから。主人公の“私”は相当ひねくれているので、友だちもいなければ、家族とも全然仲が良さそうじゃない。自分のことを本当に考えてくれる人がこの世にまだいなかった時、初めて自分のなかに入り込んできた他人が“先輩”でした」。

“先輩”は不器用な“私”をなにかと気遣い、徐々に距離を縮めていく
“先輩”は不器用な“私”をなにかと気遣い、徐々に距離を縮めていく[c]2022「真夜中乙女戦争」製作委員会

確かにそう考えると、2人が親密になっていくプロセスにも納得がいく。トイの解釈では「“先輩”が“私”を好きでいてくれるから、“私”は“先輩”が好き。それっていわば、子どもと母親のような関係性です。子どもは、ママが自分を好きだから、自分もママが大好きだと思うことで、愛情を覚えていきます。この主人公の場合は、まだ最初の愛を知っていく段階だったのだと思います。でも、その未熟さや幼さがとてもみずみずしいです」と語る。

※ここから先はストーリーの核心に触れる記述を含みます。未見の方はご注意ください。

「心の中に隠されていた、繊細な感情が引きずり出される映画」

本作の結末については、意見がわかれるのではないかというトイ。「希望の余韻だと感じる人と、破滅してよかったと思う人がいると思います。結末としては、はっきりわからないような終わり方をしていますが、結局“私”と“黒服”は対話ができたという意味では、主人公の成長は描かれたのではないかと。でも、この先の現実がどうなるかは、彼自身が決めなければいけないので、そこはあえて描いていない。いわば観る人に託しています」。

「白黒付けない結末がすばらしい」
「白黒付けない結末がすばらしい」撮影/杉映貴子

トイは「そこがこの映画の難しいところですが、そういう映画でいいとも思っています」と語る。「だって難しい映画って、何度も観たくなるから。もちろん公開中に観てほしいけど、公開が終わったあとで、3年後、もしくは10年後と、人生の節目で見返すと、すごく印象が変わっていくと思います。

例えば、私にとっては『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』がそういう作品です。10代で観た時は、(葛城)ミサトさんがすごくすてきで立派なお姉さんに見えていたのに、いま観ると、こんなメンヘラがよくこの仕事に就けたなと思ってしまう(苦笑)。本当にガラリと印象が変わりました。すなわち、『真夜中乙女戦争』も観る側が成長していくと、見方が大きく変わる映画だと思うので、そういう意味でも、ずっと一緒に過ごしてほしい作品だなと思います」。


最後に、これから本作を観る方へのメッセージをもらった。「心の中に隠されていた繊細な感情が引きずり出される映画です。世代を問わず、自分はもう擦れちゃって、最近感動するようなこともないな、と鬱鬱としている方にはぜひとも観ていただいき、自分の中に残されたキラキラした細やかな感情を味わってもらいたいです。本当に万国旗のようにエモーショナルな映画なので、ぜひ映画館でお楽しみください」。

取材・文/山崎伸子

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