『フレンチ・ディスパッチ』スタッフが語る、ファミリー感あふれる撮影現場「ウェスとの仕事は、人生を変える冒険」

インタビュー

『フレンチ・ディスパッチ』スタッフが語る、ファミリー感あふれる撮影現場「ウェスとの仕事は、人生を変える冒険」

「編集部のセットは、1枚のすばらしい資料写真からイメージを抽出」

イェーマン、カノネロよりは歴史が短いが、『ダージリン急行』に美術監督のマーク・フィリードバーグの指揮のもとアート・ディレクターとして参加し、以降すべての作品の美術監督を務めるアダム・ストックハウゼンは、ウェス・アンダーソンの唯一無二の世界を具現化する魔術師のような存在だ。長い付き合いの彼でも、『フレンチ・ディスパッチ』においては、「脚本を読んで、めまいがしました。ちょっと気が遠くなるくらいの」と打ち明ける。登場人物が多いだけではなく、それぞれが強烈な個性を持ちながらも、彼らがフランスの小さな街に実際に存在しているかのようなセット・デザインを心がけた。「最初のチャレンジは、自転車レポーターのエルブサン・サゼラック(オーウェン・ウィルソン)の物語のパートで、アンニュイ・シュール・ブラゼの街をどう見せるかというものでした。 まずはリサーチを丹念に行って視点を定めるスケッチを行い、そこからほかのストーリーが展開されていくように構成しました」。

美術監督のアダム・ストックハウゼンが、アンダーソンの世界観を具現化する
美術監督のアダム・ストックハウゼンが、アンダーソンの世界観を具現化する[c]2021 20th Century Studios. All rights reserved.

サゼラックのストーリーが街の概要を伝えるものだとすると、ビル・マーレイが演じるフレンチ・ディスパッチ誌編集長、アーサー・ハウイッツァー・Jrらが集う編集部のセットは、1から作り上げる創作の美が詰まっている。編集部のデザインソースとなったのは、トルーマン・カポーティ、ゴア・ヴィダル、ベン・ヘクト、リュック・サンテ、エミリー・ディッキンソンら文豪の仕事場。それらの資料を参考に、鍵となるイメージを抽出した。「オフィス全体の造形は、1枚すばらしい資料写真があったのですが、どこの新聞社のものなのかを忘れてしまいました。“まさに新聞社”といった風情のちょうどいい大きさで、記者たちが仕事をするためにリフォームされた空間が写っていました」。

こだわり抜かれた編集部のセットは、とある新聞社の資料写真からイメージを膨らませたという
こだわり抜かれた編集部のセットは、とある新聞社の資料写真からイメージを膨らませたという[c]2021 20th Century Studios. All rights reserved.


3人とも、ウェス組での経験が長い。新しいプロジェクトに誘われると、即座に「イエス」と答える間柄だ。ストックハウゼンがうまくまとめる。「同じ人たちと何度も何度も一緒に仕事をする機会があるのはすばらしいことです。お互いについてよく知っているから、準備にかける時間が短くても済むようになるんです」。

文/平井伊都子

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