杉山愛が肌で感じた『ドリームプラン』とウィリアムズ姉妹の衝撃…「私が対戦したなかで間違いなく最強の選手です!」
ウィル・スミスが主演&プロデューサーを務めた『ドリームプラン』が大ヒット公開中だ。第94回アカデミー賞にて作品賞、主演男優賞、助演女優賞、歌曲賞、編集賞、脚本賞の主要6部門にノミネートされ、第79回ゴールデン・グローブ賞では、ウィル・スミスが主演男優賞(ドラマ部門)を受賞している注目作だ。
本作で描かれるのは、世界最強のテニスプレーヤーと称されるビーナス&セリーナ・ウィリアムズ姉妹を育て上げた父リチャードと、テニス未経験の彼が、娘たちをテニスのチャンピオンにすべく独学で作り上げた78ページの「計画書=ドリームプラン」について。現在も現役でプレーし続けるウィリアムズ姉妹は、テニス界にとってどれだけ衝撃的な存在なのか?
そこで、世界ランキングでシングルス最高8位、ダブルス1位を誇り、グランドスラム(四大大会)ではダブルスで3度の優勝を飾った元プロテニスプレーヤーの杉山愛にインタビュー。本作を鑑賞した感想から、実際に対戦したからこそわかるウィリアムズ姉妹の強さ、そんな2人を育て上げたリチャードのすばらしさを解説してもらった。
「人生において“ビッグ・ピクチャー”を思い描くことはすごく大事なこと」
映画を観て「パパもママも本人そっくりのすばらしい再現度に感動しました!」と語る杉山。コートで相対するウィリアムズ姉妹だけでなく、彼女たちをサポートする父リチャード、母オラシーンの姿も見てきた杉山だからこそ、ビジュアルだけでなく、たたずまいまでが本人そのものであることに唸らずにはいられなかったようだ。
「つまようじをくわえて試合を見ているリチャードさんの雰囲気とか、オラシーンさんが細かいところをフォローしている様子はツアー中にもよく目にしていました。当時の光景を思い出しましたし、その時になんとなく感じていたパパ、ママそれぞれの役割が、映画でもそのままでした」と振り返る。
2人そろって単複1位を経験し、グランドスラムのシングルスでは現在までに合計30回の優勝(ビーナスが7回、セリーナが23回)を果たしているウィリアムズ姉妹。しかし、その栄光とは裏腹に、映画でも語られるように子ども時代は決して恵まれた環境だったとは言えない。姉妹が生まれる前から「ドリームプラン」を用意していたリチャードを、杉山はどう捉えているのだろうか?
「テニスだけでなく、人生において“ビッグ・ピクチャー”を思い描くことはすごく大事なこと。ただ、リチャードのビッグ・ピクチャーは、普通の人の感覚では想像できないほど大きい(笑)。しかも、1人ではなく姉妹ですから。テニスは激しいコンペティションの世界なので、チャンピオンを育てようとすること自体が大きなチャレンジです。それを実行に移す力もすごいし、それについていく2人もすごい。そしてなにより、家族総出で姉妹をサポートした、その献身さには感服せずにいられません」。
「“ビーナス・ウィリアムズ”という名前に圧倒されたのを覚えています」
杉山が最初に対戦したのはビーナスだった。1997年にアメリカのインディアンウェルズで行われた大会で初対戦し、2000年にはテニスの聖地、ウインブルドンという大舞台でも相対している。「とにかく話題の選手でしたね。すごい姉妹がいて、いよいよデビューするらしいという噂は耳に入っていました。デビュー当時からオーラがすごくて、私自身、“ビーナス・ウィリアムズ”という名前に圧倒されたのを覚えています。ジュニア時代にあまり公式戦に出てこなかった選手が、いきなりプロの大会に参戦したわけですから」。
映画にも登場する髪に白いビーズを付けたビーナスのファッションにも驚いたのではないだろうか?「いままで見たことのないファッションで、独特な感じはしました。ジュニアで経験を積み、プロになって下部大会で揉まれながらグランドスラム出場を目指すというのがテニス界の通常の流れ。狭い世界なので、トップジュニアはお互いの顔を知っているし、それこそファミリーみたいな感覚になります。だけど、ビーナスの場合は、センセーショナルでハイレベルなデビューを飾り、さらにファッションでも大きな注目を集めました。初対戦の時にビーナスは最初、チェンジコートでベンチに座らなかったんです。余裕だと見せつけられた気がしましたし、完全に舐められていると感じました(笑)。ファーストセットは私が取ったのになんとも言えない感覚というのかな。落ち着いてテニスをやらせてもらえなかった記憶があります。すごい威圧感でした」と、いまでも鮮明に覚えている初対戦の思い出を明かしてくれた。
スマートなのに圧倒的なオーラで、実際の体格以上に大きく見えるビーナス。杉山はビーナスにしか感じたことのない“大きさ”を教えてくれた。
「2000年のウインブルドンでのウォームアップのことはよく覚えています。5分間のアップは普通ベースライン(コートの一番後ろ側のライン)に立って、ボールを打ち合いながら身体を慣らすのですが、その際『この人、なんで最初からミニテニスするんだろう』とビーナスに感じた瞬間がありました。でもよく見たら、ベースラインに立っていたんです。サービスライン(ベースラインと平行したネット寄りのライン)に立っているように錯覚するほど、ビーナスが大きく見えていたんです。気づいた瞬間、ハッとしました。こりゃいかん、威圧されているって。大きく見える度合いがハンパなかったです。その時点で試合に負けていますよね(笑)。そんなふうに感じたのはビーナスだけ。最初で最後です」。
セリーナについてはビーナスよりも強い印象があると力説。「ピークの時はすべてが突出していました。攻撃力に注目されがちだけど、ディフェンス力も際立っていました。こちらがいいショットを打ったらチャンスボールが戻って来るという常識は、セリーナには通用しません。いいボールを打てば、さらに鋭いところへ返されて劣勢に追いやられる。異次元の選手です。対戦したことのない強い選手もたくさんいるけれど、私が対戦したなかでは間違いなく最強の選手です」。