『愛しのロクサーヌ』『ハーフ・オブ・イット』『シラノ』まで…大胆アレンジが名作を進化させる!

コラム

『愛しのロクサーヌ』『ハーフ・オブ・イット』『シラノ』まで…大胆アレンジが名作を進化させる!

名作と言われる物語は、様々な変遷をたどり、スタイルを変えて受け継がれる…。例えば、シェイクスピア。「ロミオとジュリエット」が基となって、ミュージカルの傑作『ウエスト・サイド物語』が誕生し、そこから最新作『ウエスト・サイド・ストーリー』へと進化を遂げた。

【写真を見る】胸をうつミュージカルシーンの美しさも必見!『シラノ』
【写真を見る】胸をうつミュージカルシーンの美しさも必見!『シラノ』© 2021 Metro Goldwyn Mayer Pictures Inc. All Rights Reserved.

シラノ・ド・ベルジュラック」の物語も、そんな名作の一つだと誰もが認めることだろう。剣豪であり、詩作の才能に秀でたシラノだが、大きな鼻をコンプレックスに感じて、愛する女性、ロクサーヌへの想いは打ち明けられない。ロクサーヌは別の男性に恋心を抱き、その男性に文才がなかったことから、シラノは恋文を代筆することに。自身の想いを別の男性の手紙として書き続けるせつなさ、愛する女性を幸せにするための自己犠牲の精神。多くのポイントが物語に触れた人の心をかきむしる。

実在の人物をヒントに、17世紀フランスで劇作家のエドモン・ロスタンが世に送りだした「シラノ・ド・ベルジュラック」は、まず舞台劇として人々を魅了。そこから現代に至るまで、世界中で舞台化、映画化がなされてきた。日本では「白野弁十郎」と名前をもじったタイトルで舞台やテレビドラマになったし、ブロードウェイではミュージカルとしても上演されている。

その最新バージョンとして公開されたのが、『プライドと偏見』(05)、『つぐない』(07)などのジョー・ライト監督による映画『シラノ』で、主人公シラノを演じたのは「ゲーム・オブ・スローンズ」などでおなじみのピーター・ディンクレイジ。これまでの多くの作品で重要な要素となってきたシラノの「大きな鼻」をなくし、身長が低いことをコンプレックスに感じる男に変更した。しかもオリジナルは、舞台ミュージカルである。究極の「進化」と言っていい作品だが、基本のストーリーは原作にほぼ忠実。改めてこの作品の普遍性が証明された。

ピーターは、舞台に続き映画でも主演を務めて絶賛されている(『シラノ』)
ピーターは、舞台に続き映画でも主演を務めて絶賛されている(『シラノ』)© 2021 Metro Goldwyn Mayer Pictures Inc. All Rights Reserved.

今回の『シラノ』と同じく、映画化された作品には、オリジナルに大きなアレンジを加えたものや、基本設定だけをモチーフにした、まったく異なるドラマも数多く見受けられる。

オリジナルに最も近く、最も有名な映画化作品と言えば、1990年の『シラノ・ド・ベルジュラック』だろう。シラノを演じたのはジェラール・ドパルデュー。もともと大きめの鼻が個性である彼が、メイクでさらに鼻を大きく見せて挑んだ。背景の時代設定はもちろん、ロクサーヌへの秘めた愛や、彼女が恋するクリスチャンとの関係など、オリジナルの魅力が最大限に生かされた作品。今回の『シラノ』のピーター・ディンクレイジもインタビューで「ドパルデューの作品はセリフもフランス語であり、エドモン・ロスタンの原作の完璧な再現」と語っていた。またジョー・ライト監督も「10代の時に観て、ガールフレンドができない自分とぴったり重なり合った」と、共感度の高さを告白。ドパルデューはこの役でカンヌ国際映画祭の男優賞を受賞。アカデミー賞の主演男優賞にもノミネートされている。

仏の名優ジェラール・ドパルデューが主演『シラノ・ド・ベルジュラック 』(90)
仏の名優ジェラール・ドパルデューが主演『シラノ・ド・ベルジュラック 』(90)写真:EVERETT/アフロ


やはり17世紀のフランスを背景にした、1950年のアメリカ映画『シラノ・ド・ベルジュラック』もオリジナルに忠実で、シラノ役のホセ・ファーラーは、アカデミー賞主演男優賞を受賞。この役を演じることで、俳優の真の実力も証明される。

シラノ役をジョージ・クルーニーの叔父でもあるホセ・ファーラーが演じた『シラノ・ド・ベルジュラック 』(50)
シラノ役をジョージ・クルーニーの叔父でもあるホセ・ファーラーが演じた『シラノ・ド・ベルジュラック 』(50)写真:EVERETT/アフロ

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