『愛しのロクサーヌ』『ハーフ・オブ・イット』『シラノ』まで…大胆アレンジが名作を進化させる! - 2ページ目|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
『愛しのロクサーヌ』『ハーフ・オブ・イット』『シラノ』まで…大胆アレンジが名作を進化させる!

コラム

『愛しのロクサーヌ』『ハーフ・オブ・イット』『シラノ』まで…大胆アレンジが名作を進化させる!

多彩なアレンジの作品に浮かび上がる名作の偉大さ

ハリウッド映画として有名なのは、1987年の『愛しのロクサーヌ』。ピーター・ディンクレイジも、この作品をシラノ映画の「ナンバー2」に挙げた。タイトルにあるとおりヒロインの名前は同じだが、主人公の名前はC・D・ベイルズ。舞台も同時代(80年代後半)のアメリカへ移ったので、職業は消防団長に変更された。人々の“英雄”になる存在として、オリジナルの騎士にも通じる役どころではある。主演はスティーヴ・マーティンで、基本はコメディ。しかし彼の持ち味であるドタバタ&おふざけ系のムードではなく、ロマンチックな味わいが濃厚な作風となった。シラノの映画として、今作を記憶に焼きつけている人も多いだろう。

ヒロインのロクサーヌ役に、『キル・ビル』(03)などでも知られるダリル・ハンナ(『愛しのロクサーヌ』)
ヒロインのロクサーヌ役に、『キル・ビル』(03)などでも知られるダリル・ハンナ(『愛しのロクサーヌ』)写真:EVERETT/アフロ

ちょっと異色なのは、日本映画での翻案。なんと戦国時代に置き換えた時代劇で、あの三船敏郎がシラノに相当する武士の兵八郎役を演じたのが、1959年の『或る剣豪の生涯』だ。主人公は当時のキャッチコピーで“獅子っ鼻”と形容され、他のシラノ映画と違って、その鼻は横幅の大きさが特徴。幼い頃から仲の良かった姫と、その恋の相手を巡る三角関係の構図や、手紙を代筆する行為など、基本ドラマはほぼ同じ。日本の戦国時代でも通用する、シラノの物語のポテンシャルに驚くばかりだ。

シラノにあたる主人公の設定を、中国系の女子高生にアレンジ『ハーフ・オブ・イット:面白いのはこれから』(Netflixで配信中)
シラノにあたる主人公の設定を、中国系の女子高生にアレンジ『ハーフ・オブ・イット:面白いのはこれから』(Netflixで配信中)写真:EVERETT/アフロ

そのほかにも基本設定を使った作品は、近年まで何本も作られており、2012年のディズニー・チャンネルのテレビムービー『レット・イット・シャイン』は、手紙の代筆ではなく、主人公の“作曲”の才能を生かした青春ドラマへと変貌。そしてNetflixの『ハーフ・オブ・イット:面白いのはこれから』は、アメリカの片田舎を舞台にした高校生の三角関係が展開。主人公がラブレターの代筆を頼まれるのだが、この作品の特徴は、シラノとロクサーヌに相当する役がともに女性という点。しかも主人公がアジア系。2020年らしくダイバーシティを体現したような作風で、しかも観た人の評価がことごとく高い、青春ムービーの傑作となっている。


無名の若手作家が名作をどう生み出したのかがコミカルに描かれる『シラノ・ド・ベルジュラックに会いたい!』
無名の若手作家が名作をどう生み出したのかがコミカルに描かれる『シラノ・ド・ベルジュラックに会いたい!』写真:EVERETT/アフロ

また別パターンの映画として、エドモン・ロスタンが原作の戯曲を書いた日々を再現した、2018年の『シラノ・ド・ベルジュラックに会いたい!』もある。エンドロールでは、これまで映画でシラノを演じた俳優が紹介されたりするので、シラノの世界の“まとめ”としても必見だ。

手紙を媒介に繰り広げられる複雑なトライアングルの行方は…(『シラノ』)
手紙を媒介に繰り広げられる複雑なトライアングルの行方は…(『シラノ』)© 2021 Metro Goldwyn Mayer Pictures Inc. All Rights Reserved.

一つの原作からここまで多岐にわたる作品が誕生し続けるのは、ほかにもあまり例がない。最新作の『シラノ』は、17世紀フランスという物語の原点に戻りつつ、重要ポイントの大胆な変更、そして舞台でも何度も作られたミュージカルというジャンルで、これまでのシラノの世界の集大成といった印象も強い。過去にこの名作の映画化、舞台化を観てきた人は確実に感動が甦るだろうし、初めてこの物語に接する人は、名作の偉大さを素直に実感するはずである。

文/斉藤博昭

関連作品