小松菜奈と坂口健太郎が『余命10年』で考えた、愛する人に出会える奇跡
小松菜奈と坂口健太郎と引く手あまたな俳優2人が、第43回日本アカデミー賞6部門受賞作『新聞記者』(19)や『ヤクザと家族 The Family』(21)の藤井道人監督のもとでW主演を務めた『余命10年』(公開中)。主人公と同じ難病により、若くしてこの世を去った小坂流加の同名小説が原作なだけに、2人はただならぬ想いで作品と向き合ったようだ。約1年をかけて丁寧に撮影した濃厚な時間について聞くと、2人は「宝物のような時間でした」と口をそろえた。
小松演じるヒロインの茉莉(まつり)は、数万人に1人という不治の病に侵され、余命が約10年だと知る。「もう恋はしない」と誓う茉莉だったが、同窓会で真部和人(坂口)と再会して惹かれあい、人生が輝きだしていく。
「“抜け殻になる”というのは、こういうことなんだなと感じました」(小松)
――小松さんは舞台挨拶で「自分と役の人生が両方重なって、2つの人生を歩み続けました」とおっしゃっていましたが、やはり特別な経験だったのでしょうか。
小松「これまでにいろんな役をやらせていただきましたが、こんな経験は本当にしたことがなかったです。撮影に入る前、小坂流加さんのご家族とリモートでお話ししたり、同じ病の患者さんのお話をお聞きした時に受けた想いや、役作りにおいて減量したことも含め、何度か自分の気持ちがあふれ出る瞬間がありました」
――それは、茉莉としての感情があふれ出したということでしょうか?
小松「茉莉というより自分自身の感情だったような気がします。現場ではそこの葛藤も正直ありました。とにかく、色々なことが全部積み重なっていったので、撮影が終わった時に『ああ、生き切ったな』と感じたというか…。自分の人生までもが、1回バンとドアが閉まったような気持ちになりました。その時に、“抜け殻になる”というのは、こういうことなんだなと感じました。
私はあまり役を引きずることはないのですが、今回は本当に喪失感がありました。撮影が終わってやっと息がつけると思いながらも、寂しさも感じたりして、それはこれまで味わったことのない感覚でした。そういう意味で、“2つの人生”という言葉がしっくり来たんだと思います」
――坂口さんも、小松さんと同じように「自分でもここまで感情があふれることがあるんだと驚きました」とおっしゃっていましたね。
坂口「僕は基本的に、自分が被写体として出ている作品はフラットに観ることはできないのですが、今回は少し違いました。台本を読んでいるし、内容も知っているのに、ちょっと感情を止められなかったシーンがありました」
――それはどんなシーンでしたか?
坂口「僕のなかで、特に大切にしたいと思っていた台詞がありまして。それは、駅周辺で茉莉ちゃんをずっと捜し回って、ようやく見つけた時に言う台詞で『死にたい。って思ってた俺に、生きたいって思わせてくれた茉莉ちゃんのために、俺は生きる』というものです。和人は最初、自分の命を投げだそうとしていた男の子なので、もし茉莉に出会っていなかったら、彼はどうなっていたんだろうと思うと怖いです。和人と茉莉の関係性は、単なるラブというよりは、どこか魂のつながりがあったのかなと。彼はある種、茉莉に救われたわけなので、あの台詞は感情があふれ出るトリガーになったような気がします」