『コーダ あいのうた』トロイ・コッツァー受賞スピーチ全文。感動とユーモアで会場の心をさらう
“CODA(Children of Deaf Adults – 聴覚障がいを持つ家庭の健常聴覚を持つ子どもたち)”である高校生のルビー(エミリア・ジョーンズ)は、ロッシ家の“通訳”として家業の漁業を手伝う。ルビーの秘めた才能と夢に気づいた父フランク(トロイ・コッツァー)は、娘の夢を応援することに――。2021年1月のサンダンス映画祭でプレミア上映され、観客賞など4部門を受賞した『コーダ あいのうた』(公開中)。小さなインディペンデント映画が口コミで広がり、とうとうアカデミー賞作品賞を受賞した。
誰よりも妻と家族を愛するフランクを演じたコッツァーは、助演男優賞に初ノミネートで初受賞。聴覚障がいを持つ俳優として、史上2人目の受賞者となった。1人目の受賞者は、妻のジャッキー役を演じた女優、マーリー・マトリン。
助演男優賞部門は、昨年、『ミナリ』(20)でアジア系女優として初めて助演女優賞を受賞したユン・ヨジョンがプレゼンターを務めた。彼女は、「私はハリウッドの人間ではないので、戻ってこられて光栄です。母がよく言っていました。因果応報、と。母の言うことを聞くべきでした。昨年、私の名前を間違って発音されることに公衆の面前で文句を言いました。そして…このカテゴリーにノミネートされているすばらしい俳優たちのお名前を、私が正しく発音しなくてはならなくなりました。先に謝っておきます。お許しください」と、今年もウィットに富んだスピーチで会場の雰囲気を和らげた。発表の際、手元の封筒を開けると一息おいて手話でサインを送り、音で聴くよりも早く受賞者を知らせた。
トロイ・コッツァー 助演男優賞受賞スピーチ全文
ここまで来る道のりはすばらしいものでした。自分がここにいることが信じられません。私の作品を評価してくださったアカデミーの皆様、本当にありがとうございます。すばらしいことに、私たちの映画『コーダ』は世界中に届きました。ホワイトハウスにまで届いたのです。ホワイトハウスを見学するためにキャストを招待してくれて、ジョー・バイデン大統領とジル・バイデン博士にお会いました。私は彼らに下品な手話を教えようと思ったのですが、マーリー・マトリンが、「お行儀よくしてね」と言いました。心配しないでマーリー、今日のスピーチではFワード(放送禁止用語)は使わないからね。その代わりに、私が俳優として成長する機会を与えてくれた、聴覚障がい者のすばらしい劇団に感謝したいと思います。そのおかげで、演技を学ぶことができました。ありがとうございました。
最近読んだスピルバーグの本に、「最高の監督の定義は、巧みなコミュニケーターである」とありました。シアン・ヘイダー、あなたは最高のコミュニケーターです。あなたは聴覚障がい者の世界と健常者の世界をひとつに結んだからです。そして、あなたは私たちの架け橋であり、あなたの名前はここハリウッドに、“シアン・ヘイダー橋”として永遠に残ることでしょう。この作品は、Apple、サンダンス、キャスト、スタッフ、プロデューサー、そしてマサチューセッツ州グロスターのコミュニティによって支えられているのです。漁師の皆さん、ポパイのホウレンソウを食べましょうね。
私の父は、家族のなかで最高の手話話者でした。でも交通事故に遭って、首から下が麻痺してしまい、手話ができなくなりました。父さん、私はあなたから多くのことを学びました。これからもずっと大好きです。あなたは私のヒーローです。ありがとう。僕の最大のファン、故郷アリゾナ州メサにいる妻と娘のカイラに感謝します。そして、マネージャーのマーク・フィンリー。この賞は、私たちのチーム、聴覚障がい者のコミュニティ、CODAのコミュニティに捧げるものです。母、父、そして弟のマークへ。彼らは今日ここにいませんが、いまの私を見てください。やったよ!愛してる。ありがとうございました。
文/平井 伊都子