レオス・カラックスが東京に降臨!最新作『アネット』の裏話を告白「音楽の後に来る沈黙は美しい」
“アンファン・テリブル”と称される衝撃の監督デビューから38年。これまで発表した長編作品は6本のみと寡作ながらも、映画ファンから絶大な支持を集めるレオス・カラックス監督が最新作『アネット』(公開中)を引っ提げて9年ぶりに来日。4月1日に東京・渋谷にあるユーロスペースで初日舞台挨拶に登壇。カラックス監督の姿を一目見ようと会場は超満員となり、劇場ロビーまで大勢の人でごった返していた。
第74回カンヌ国際映画祭でオープニングを飾り、コンペティション部門の監督賞を受賞した本作は、アダム・ドライバーとマリオン・コティヤールを主演に迎えた全編英語のミュージカル。物語の舞台はロサンゼルス。攻撃的なユーモアで人気を博すスタンダップコメディアンのヘンリーと、国際的に有名なオペラ歌手のアン。恋に落ちた2人は世間から注目されるようになるのだが、2人の間にミステリアスで非凡な才能をもったアネットが生まれた事で、彼らの人生は狂いはじめる。
カラックス監督は登壇すると「9年ぶりとご紹介いただきましたが、今回の作品の製作にユーロスペースの堀越謙三さんが参加されていることなどもあって、何度か日本に来ていました。毎回来るたびに、日本に戻ってこられたことをとてもうれしく感じます」と挨拶。そして「世界中のさまざまな国で公開されてきましたが、中国と台湾を除けば日本が一番最後に公開される国。今日はエイプリルフールなので冗談を言ったりする日だと思います。なのでこれもその一環かもしれません」と茶目っ気たっぷりに語った。
舞台挨拶は事前に集められた質問にカラックス監督が答えるというQ&A形式で行われた。まず東京のどのような場所がお気に入りかを訊かれると、「桜の季節に来日するのは初めてで、東京の街を歩いて回るのが好き。エレガントな部分と下品で猥雑な部分が同居しているのが自分にとって興味深く思います」とコメント。また本作には水原希子や古舘寛治ら日本からのキャストも出演しており、それについては「共同製作作品なので、参加している国の一部を入れ込みました。一つの作品を作る上で色々な国の要素がミックスされることをとても気に入っています」と満足そうな表情。
そして主演の2人について訊ねられると「アダムを起用したのは『GIRLS/ガールズ』というテレビシリーズを観たことがきっかけで、いつか彼を撮りたいと思っていた」と告白。「彼らは本業が俳優で、今回の映画のように歌うことは得意分野ではない。通常ミュージカルは最初に録音をするけれど、今回は演技をする場で歌ってもらう同時録音に挑戦してもらった。すると彼らはたちまち不安定な状態に陥る。僕は役者が身体的な表現をするのが好きですが、今回は演技よりも歌に挑戦させられている脆弱さが見え、とても美しく感じました」と振り返った。
前作『ホーリー・モーターズ』(13)や、その前のオムニバス映画『TOKYO!』(08)の一編『メルド』に続いて“緑色”を積極的に使う理由については「好きだからだよ(笑)」と微笑み、「デジタルで撮影をする前はフィルムで撮っていましたが、フィルムでは美しい緑色にならないのでタブーだった。『TOKYO!』の時にデジタル撮影に挑戦してみたらすごく緑色が映える。だから緑の衣装をきた主人公にしたのです。それ以来、すっかり緑色に恋をしてしまい、僕のアパルトマンも全部緑色になっています」と明かす。
そして常に音楽が鳴り続けるミュージカル作品に挑んだ感想を訊かれ「最初はちょっと不安もありました。今回の企画はすべてが歌だというアイデアだった。ひょっとするとジュークボックスがエンドレスで鳴り続けているような恐怖があったのですが、そうしたなかでも音楽の後に訪れる沈黙に魅力を感じることになりました。台詞の後の沈黙ではなく、音楽の後に来る沈黙は美しい。歌と音楽での撮影もとてもナチュラルに感じることができたので、次回作で台詞劇に戻ることができるかと不安でもあります」と語ると、次なる作品の予定については「近々また撮りたいという思いがあります」とだけ答えた。
その後会場には、サプライズゲストとして本作に出演した古舘が登場。カラックス監督と力強く握手をかわし、「すごく穏やかな方で、撮影というもの創作そのものがエンジョイするべきものであることを思い出させてくれるように楽しかったです」と撮影を振り返る。するとカラックス監督は笑顔を浮かべながら「ここで一つ秘密を教えます。古舘さんを起用した最大の理由は一番歌が下手だったからです」と会場の笑いを誘っていた。
取材・文/久保田 和馬
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